ファイナンス 2020年5月号 No.654
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(1)ポルトアレグレ市(ブラジル)1989年に開始した同市での成功が、参加型予算が世界に広まるきっかけとされる*6。まず、全市民が参加できる地区毎の評議会にて予算の優先順位の議論を行うと共に代議員を選出する。そして、地区代表者による代議員総会において予算案をまとめ、最終的に市議会で予算を決定する。貧困の改善に繋がる生活インフラの整備などバランスのとれた都市開発が実現されたことに加え、行政の透明性が高まりガバナンスが改善されたと評価される。(2)パリ市(フランス)2014年から2020年までの「投資予算」*7の5%(7年間で約5億ユーロ)の使途を市民による提案と投票で決定する世界最大の予算規模の事例である*8。全パリ市民がデジタルプラットフォーム(Paris Budget Participatif)を通してプロジェクトの提案に参加できるほか、市民によるプロジェクトの検討を支援するワークショップも開催される。市による提案プロジェクトの審査で選定される投票対象に対し、市民が投票箱及びオンラインで投票し、採用事業が決定される。市民によるモニタリングとして、過去の提案事業の進捗状況をオンラインで一覧できる。2019年の取組では、14万3,489人の投票(1人8票まで)で194のプロジェクトが選定されたが、多くが市民の関心が高い地域のインフラ整備である*9。(3)ポルトガル提案と投票の2段階で実施する参加型予算を、国レベルで最初に導入した事例である。ポータルサイト(Orçamento Participativo Portugal)を通じて又は全国で開催される参加型会議の場で提案ができ、実現可能性の審査を通過すれば投票の対象となる。これまで2回実施(図表1)され、国民のネットワーク作り*6) 軍政から民政への移行が進む当時のブラジルでは、民主化と地方分権が進められていたが、予算を市民の生活改善に配分するための手法として労働者党のオリヴィオ・ドゥトラ市長により参加型予算が導入された。最大で3万人近い(人口140万人の約2%)多くの市民が参加した。*7) 投資予算は、総予算から行政運営に必要な運営予算を除く公共施設の整備等に充てる経費。2019年では、17億ユーロが投資予算となっている。*8) 2014年に就任したアンヌ・イダルゴ市長が開始した。プロジェクト参加プラットフォーム(Idee.paris)など他の仕組みも提供されている。*9) 2,084のプロジェクトが提案され、市の審査の結果、430が投票の対象となった。選定された194のプロジェクトのうち、パリ全域の利益になる全域プロジェクトが11(街路樹の整備、ごみ分別収集箱の設置、太陽光発電街路灯の設置、水泳ができる運河への改修など)、特定の地区のための地区プロジェクトが183(交差点の改修、駐輪場の設置、湖の遊歩道の改修など)。高校生や大学生、公営住宅居住者向けの参加制度も設けられている。*10) 全国プロジェクトと地域プロジェクト(7つの地域別)に1票ずつの計2票を投票できる。2018年は、3の全国プロジェクト(闘牛文化の啓発、お菓子イベントの開催など)、19の地域プロジェクト(無料の子ども演劇学校の設置、天文学公園の設置など)が選定された。*11) 交付金の対象は、住民の合意により実施するまちづくり事業であり、防犯パトロール、防災訓練、環境美化活動、高齢者や子どもの活動、地域文化活動、住民交流などに充てられている。*12) 2020年度予算に計上された事業としては、防災備蓄品リストを提示するウェブサイトの構築(4,100万円)、都営住宅等の空き住戸のシェア居住向け整備(700万円)などがある。2019年度予算から「大学研究者による事業提案制度」も導入している。や地域間統合の促進を狙いとしており、文化的な連帯感を育むプロジェクトの選定が特徴的である*10。図表1 ポルトガルの参加型予算の実施状況2017年2018年予算額300万ユーロ500万ユーロ分野教育、職業訓練、文化、科学、農業、司法全て(限定なし)候補プロジェクト数599個691個投票数7万8,815票11万9,703票選定プロジェクト数38個22個※2019年は、選ばれたプロジェクトの実行に集中するため、新たな選定を休止している。(4)三重県名張市「住民が自ら考え、自ら行う」まちづくりを実現するため、2003年から「ゆめづくり地域予算制度」を実施している(2019年度予算額 1億600万円)。従来の地域向け補助金を廃止した上で、概ね小学校区を単位とする15の地域づくり組織に使途の限定がない交付金を交付し、住民の合意により実施するまちづくり事業*11に充てている。(5)東京都行政にはない新たな発想の活用や、都民の都政への参画を目的とし、「都民が提案し、都民が選ぶ」仕組みである「都民による事業提案制度」を2018年度予算から導入している*12。提案をテーマ別に募集後、都庁で精査し、事業案にまとめた上で、インターネット投票(1人3票まで)を実施している(図表2)。図表2 東京都の参加型予算の実施状況都民による事業提案制度提案件数投票総数予算案反映数総額2018年度255件4,185票9事業8.5億円2019年度248件1,987票9事業4.7億円2020年度242件4,213票9事業1.5億円大学研究者による事業提案制度提案件数投票総数予算案反映数総事業費2019年度109件3,048票7事業15.4億円2020年度61件7,020票6事業8.9億円 ファイナンス 2020 May.37三重県庁の参加型予算「みんつく予算」の取組について SPOT

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