ファイナンス 2020年5月号 No.654
40/84

1はじめに*12019年4月に再選した鈴木英敬三重県知事の表明*2を受け、三重県庁は2020年度予算編成での参加型予算の導入を決め、愛称を「みんなでつくろか みえの予算」(略して、「みんつく予算」)と定めた。本稿では、財務省から三重県庁に財政課長として出向中の筆者(富永)が取り組んだ参加型予算「みんつく予算」を紹介する。2参加型予算住民に身近な存在である地方自治体では、住民(市民)が政策過程の諸段階に自発的に関与する「参加」が重要である*3。このため、公職選挙での投票だけでなく、直接的な参加の制度として、住民投票、請願、公聴会や説明会、情報公開、アンケート、パブリック・コメントなどが用意されている。参加型予算(Citizen Participatory Budgeting)は、行政の資源配分を決める重要な政策過程である予算編成に市民が直接関与する仕組みであり、市民の意思を行政活動に直接的に反映できる方法として注目される。首長の予算編成権*4は事業実施部局と査定部局との議論で具体化されるが、職員同士の折衝が中心であり、そこに市民が参加する機会は多くない。しかし、近年の市民のニーズの多様化、複雑化に伴い、市民の声を予算編成に直接取り入れる必要性が高まっている。参加型予算には、市民の参加方法に関して多様な仕組みが想定できる。三重県の「みんつく予算」では、*1) 本稿の意見にわたる記述は、筆者の個人的な見解である。みんつく予算の事業提案と投票に参加して頂いた方、応援して頂いた方に感謝を申し上げる。*2) 「未来展望みえの会の政策集 2019」p54では、「厳しい財政状況の中でも、県民の皆様と協創で予算を作り上げるという観点から、フランス・パリ市などで行われている「参加型予算」の導入について検討します」と記述されている。*3) 「住民(市民)参加」の定義、意義に関しては、多様な議論がなされている。ここでは、西尾(2016)p72の定義を用いた。兼村(2016)p14では、一般的な概念として、「市民」は良識ある参加者たる規範的な主体を指すのに対し、「住民」は地域的に利害をもち利己的であるなど多様な価値観をもった主体を指すとする。本稿では、主に「市民」を用いる。*4) 二元代表制を採る地方自治体の予算は、首長である知事又は市町村長が調製し(地方自治法第149条第2号)、議会が議決する(同法第96条第1項第2号)ことで成立する。議会に提出する予算案の編成は、財政課長査定・総務部長査定・知事査定などと段階的に進む。*5) 参加型予算の定義が一定ではないため、その総数は明らかではないが、相当数の導入例があるとされる。市民から事業アイデアの「提案」を受け、実行主体となる県庁で「審査」し、絞り込んだ提案に対し具体的な事業案を作成した上で、市民の「投票」で実行する事業を決定するという方法を採用した。3先行事例世界各国で実施される参加型予算の一部を(1)~(3)で紹介する*5。日本の基礎自治体の事例を(4)で、東京都の事例を(5)で紹介する。三重県庁の参加型予算 「みんつく予算」の取組について三重県総務部財政課 富永隼行/谷口純一*1三重県人口178万人。中部圏と近畿圏の両方に属し、伊勢神宮、伊賀の忍者、海女など文化的資産を持つ。四日市など製造業が盛んな地域がある一方、伊勢志摩・東紀州地域など豊かな自然に恵まれる。松阪牛など食べ物もおいしい。G7伊勢志摩サミット(2016年)を開催した志摩市で、2021年に第9回太平洋・島サミットを開催予定。36 ファイナンス 2020 May.SPOT

元のページ  ../index.html#40

このブックを見る