ファイナンス 2020年5月号 No.654
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最後に「エイゴは、辛いよ。」を寄稿してから、5年間のご無沙汰です。うち3年間はマニラのアジア開発銀行(ADB)で予算人事局長という仕事をし、日本に戻った後もルワンダとかマダガスカルとかあちこち出張し、お伝えしたいことが溜まってきました。なかなか移動もままならない最近の世界情勢の中、少し耳新しい外国での暮らしの話をして、皆さんが少しでも日本の外に心を馳せて楽しい気持ちになってくれればという思いで今号から3回書かせて頂きます。第1回はマニラ編です。初めて暮らす異国の地、職場の国際機関で多様な国籍の人々とエイゴで仕事する。日々悲喜苦楽感涙絶えず。しかし職場の中でも外でも私に元気と笑顔をくれたのは、フィリピンの人たちでした。以下文体を変えていつもの調子で話を始めます。1まずは楽になろう(1)ゴルフ場編フィリピンは、日本と文化も言葉も考え方も違う。マニラで暮らす日本人の中でも、楽になれる人と、楽になれない人がいる。楽になれない人は不幸である。楽になれると、この街は直ちに貴方の故郷になる。それは全て貴方次第。着任早々、ゴルフ場で、試された。マニラ近郊には美しいゴルフ場が数多くある。プレーヤー1人にキャディー1人が付き、その多くは丁寧で親切でゴルフに詳しいプロフェッショナルである。ある名門と言われるコースの後半のホールで第1打を打とうとして周囲を見た。しかし自分のキャディー(女性)が見当たらない。前後左右360度見たが、いない。おかしいな俺の球は何処に行くか分からんから見ていて欲しいなあと思いながら打った、その直後、右斜め後ろ45度の方角で、5mほどの高さの木の上でがさごそ音がした。さては怪しい動物かと身構えたその時、ゆっくりと、横枝に足をかけながら、キャディーが下りてきた。地面に降りるや否や、満面の笑みで、こちらを向く。何かを両腕に一杯抱えている。「これ、マンゴー。」なに? え? 俺の球を見ないでマンゴーの木に登っていたのか?「This is for YOU, Sir.」余りにも自然な、スマイルである。10個以上のマンゴー。ここで、怒ってはいけない。これこそが、フィリピンの人の、おもてなしなのである。身の危険も顧みず、木に登ってお客様のためにマンゴーを採る。日本の人に喜んでもらいたい。冷静になろう冷静に。これを超えれば、楽になれる。ここで即時「Thank you」と言って、よく熟れた黄色のマンゴーを受け取るのだ。そして2倍の微笑みを返すのだ。That was my turning point in Manila.いくつかの心の葛藤を超えて、自分にも出来た。そして楽になれた。(2)職場編ADB3,000人強の全職員のうち、1,400人以上は本部勤務のフィリピン人である。彼ら彼女らの質は極めて高い。ADBのクオリティはこうした地元採用職員に支えられている。みんな勤勉実直である。そして上司幹部を無限定に敬い、忠実に仕える。最初は、みんな上司である私の前で緊張し、硬い表情を崩さなかった。これではこちらの居心地も悪く、お互い楽になれない。楽になるため、決心し、冗談を言うことにした。スベるのも覚悟の上である。I determined. いけない余り力が入ると却って滑る。Aprilというファーストネームのフィリピン人女性新・エイゴは、辛いよ。大矢 俊雄―第一回 マニラ編―32 ファイナンス 2020 May.SPOT

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