ファイナンス 2020年5月号 No.654
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1はじめに財務省関税局は、不正薬物等の密輸対策やテロ未然防止に向けた水際対策の一環として、業界団体との協力関係を強化してきています。本年2月、洋上における不正薬物やテロ関連物資などの密輸対策の一つとして、全国漁業協同組合連合会(全漁連)と「密輸防止に関する覚書」(以下「覚書」という。)を締結しました。2「密輸防止に関する覚書」とはこの覚書は、水際での厳格な取締りと迅速な通関の両立を実現するため、財務省・税関と各種業界団体の相互理解を深め、継続的な協力関係を構築することについて、双方合意の上、締結するものです。具体的には、業界団体側は、不審物を発見した場合の税関への通報や防犯カメラの設置等の自主警備の強化、従業員に対する密輸に関する研修の実施などを、財務省・税関側は、密輸問題に関する啓蒙活動の支援などの協力を行います。業界団体との覚書は、平成4年に、不正薬物の密輸防止のための不審情報提供の協力強化を目的として初めて締結されました。平成7年には、密輸防止の対象に銃器を追加し、さらに昨年には、G20大阪サミットを控え、テロ防止等の観点を追加し、内容の拡充を図りました。併せて、宿泊施設が貨物の送付先として悪用される事案や、増加するクルーズ船旅客への対応を念頭に、新たに宿泊業界やクルーズ船業界とも覚書を締結し、官民の連携を一層強化しました。これまで、覚書締結先である業界団体から多くの情報を提供*1) 令和元年の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況の詳細については、26ページの「令和元年の密輸動向及び第32回人事院総裁賞受賞について」をご覧下さい。*2) 財務省関税局が覚書を締結した団体は合計11団体(2020年5月現在)となりました。11団体は、一般社団法人航空貨物運送協会、一般社団法人日本通関業連合会、一般社団法人日本船主協会、定期航空協会(平成4年6月締結)、外国船舶協会(平成7年2月締結)、一般社団法人大日本水産会(平成12年4月締結)、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会、一般社団法人全日本シティホテル連盟、一般社団法人日本旅館協会、一般社団法人日本外航客船協会(平成31年4月締結)、全国漁業協同組合連合会(令和2年2月締結)です。していただき、その情報も活用しながら、相当量の不正薬物、金地金等の密輸を摘発しています。3全国漁業協同組合連合会との覚書締結について昨年、関税法違反で摘発された、不正薬物の密輸事件は前年比約1.2倍の1,046件で、押収量は約2.2倍の約3.3トンでした。特に覚醒剤は史上初めて2.5トンを超えるとともに4年連続1トン超えとなっており、深刻な状況です*1。その中でも、海上で積荷を移し替える「洋上取引」、一般的に“瀬取り”と呼ばれる方法による大量の密輸が目立っています。2019年6月の静岡県下田沖における約1トンの覚醒剤摘発、同年12月の熊本県天草沖における約600キロの覚醒剤摘発のように瀬取りによる密輸は一度の押収量が非常に大きく、財務省・税関としても、日頃から警戒を強めているところですが、これら2つの事件については、漁業関係者からの不審情報の提供があり、摘発に至りました。こうした洋上における密輸への対策強化のため、地元の海を良く知る漁業関係者の団体である全漁連との協力関係を強化することとし、覚書を締結することとなりました*2。覚書締結式においては、冒頭、中江関税局長から「不正薬物等の密輸対策やテロ未然防止に向け、水際対策を強化しています。四海を海に囲まれた広い国境においては、特に、漁船や漁港等が覚醒剤や武器等の密輸に利用されないよう、地元の漁業関係者の皆様の財務省関税局と全国漁業協同組合連合会との 「密輸防止に関する覚書」締結について関税局監視課調査官 中尾 光宏30 ファイナンス 2020 May.SPOT

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