ファイナンス 2020年5月号 No.654
27/84

3EPAと原産地規則の関係現行のWTO体制の下では、貿易関係手続に関し、全てのWTO加盟国に対して差別なく同等の取り扱いをすることとなっています。これは「最恵国待遇(MFN:Most Favored Nation)」と呼ばれるもので、どの国に対しても同一の物品には同一の関税率を適用しなければなりません。一方で、EPA締結国間では、EPAに基づき、より低減された関税率(または無税)で輸入することができます。この締結国間の約束に基づく税率を「特恵税率」と呼んでいます。この特恵税率の適用はEPA締結の大きなメリットですが、これは締結国の「原産品」のみに適用されます。何をもって「原産品」とするか、各EPAにはこの原産性にかかる定義、及び特恵税率の適用に必要な手続きを規定した原産地規則章が必ず設けられています。原産地規則の内容如何によって、自国の産品の対締約国への輸出、また、締約国産品の自国への輸入のしやすさが大きく左右されます。したがって、EPA交渉では、締約国間では、お互いに自国に有利となる原産地規則とすべく厳しい交渉が行われます。多くのEPAでは、産品が輸出国の原産品であることを示すものとして、輸出国の権限ある発給当局が発給する「原産地証明書」を求めており、我が国では、輸入申告時に税関に提出することが求められています。我が国では、日本商工会議所がこの原産地証明書の発給当局となっており、我が国がこれまで締結したほとんどのEPAでは、この原産地証明書の提出により、原産性を判断し、特恵税率を適用しています。4日EU EPAでの原産地規則この原産性の証明ですが、最近のEPAでは、輸出締約国の当局が発給する原産地証明書に代わり、貿易関係者が(生産者、輸出者、輸入者)自ら原産性を証明する、「自己申告制度」が採用されてきています。原産性を示す疎明資料を輸出国発給当局に提出して原産地証明書を発給してもらう代わりに、疎明資料を基に自らが原産品申告書を作成、輸入国税関に提出するものです。輸入される産品の原産性について、貿易関係者自らが責任を負うこととなりますが、発給当局に申請、証明書を発給してもらう手続きに比べ簡易で短時間、かつ、自らの商業上の都合に合わせてタイムリーに申告書を作成できるというメリットがあります。我が国では、2015年に締結された日豪EPAが第1号で、それ以降はこの「自己申告制度」が主流となっています。これは、我が国の貿易関係者にも普及し、広く用いられています。日EU EPAにおいては、この自己申告制度(輸出者又は生産者による「輸出者自己申告」、輸入者による「輸入者自己申告」)のみが、原産地証明手続きとして規定されています。5日EU EPA発効後の運用改善日EU EPA発効後、これまでに何も問題がなかったわけではありません。上述の自己申告制度ですが、EUの輸出者による原産品申告書が我が国税関に提出される際に、我が国輸入者が輸出者に対し、より詳細な資料を求め、EUの輸出者から苦情が寄せられるケースが多く発生しました。また、我が国からの輸出については、EUメンバー国間での手続きの統一がなされていない部分があり、EPAに規定された正当な手続きを経ているにも関わらず、輸入国側で特恵税率の適用が認められないケースが見られるようになりました。このような状況では日EU EPAのメリットが最大限には活かされないとの問題意識から、発効直後から、日本、EU双方の税関当局を中心に協議が続けられ、ハイレベルの議論も行われました。2019年6月には、これらの問題点を解決するために、ベルギー・ブラッセルにおいて関税局高見審議官(当時。現財総研副所長)とEU税制・関税同盟総局ヘンツラー国際業務・総務局長との間で、日EU双方が今後実行すべき方策について合意されました。その後、相当数のメールのやり取りやテレビ会議を経て、合意にしたがって、2019年8月から11月にかけて日本側手続きの簡素化が段階的に実現されました。更に、日本の輸出者からは「不透明」に見えていたEU側の手続きの不統一を是正するため、日EUで共通のガイドラインを作成し、2019年末に公表されました。これらの交渉は、EPA交渉本体と同様に厳しいものとなりましたが、貿易関係者の利便性向上を念頭に、着地点を見出す努力が続けられた結果、日EU双方で合意に至りました。 ファイナンス 2020 May.23日EU経済連携協定SPOT

元のページ  ../index.html#27

このブックを見る