ファイナンス 2020年4月号 No.653
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る。アムトラックは、ワシントンD.C.~ニューヨーク間、ニューヨーク~ボストン間では航空会社よりも多くのシェアを獲得しているが、北東回廊内での都市間旅客流動の大半は依然として自家用車によるものである。現在北東回廊は、インフラの劣化や、線路容量の不足など、深刻な課題に直面している。これに対し、FRAは北東回廊の包括的な計画・投資プログラムであるNEC FUTUREを策定した。この取組みの一環として、FRAは環境影響評価(EIS)を完了して望ましい計画案(preferred alternative)を認定するとともに、2017年に決定記録(ROD:Record of Decision)に署名した。選定された計画案(selected alternative)は、北東回廊全体について、設備の適切な修繕と近代化を実施し、線路容量の増加、乗継の利便性向上等によって、2040年にかけての旅客輸送需要に応える輸送力の増強を図ると謳っている。NEC FUTUREプログラム実施の費用は、25年間で1,200億ドルから1,500億ドル程度と推定されている。3.2  米国連邦政府の高速鉄道等への財政支援*403.2.1 これまでの経緯特定財源と紐づいた基金からの支援がある高速道路、航空及び都市内公共交通(transit)とは異なり、鉄道は連邦予算において特定財源を持ったことがない。これまで、連邦政府からの鉄道に関する財政支援は、不安定かつ不十分で、旅客鉄道インフラの整備は一貫性に欠けてきた。同様に、アムトラックも創設以来政府からの財政支援に依存し続けてきたが、その支援額は常に予測困難であり、基本的な修繕すら満足に行えていない。前述の通り2009会計年度まで、国家予算における鉄道発展のための資金は、アムトラック補助金を除いて重要視されてこなかった。 例えば、2008会計年度に都市間旅客鉄道補助金(Intercity Passenger Rail Grant)プログラムに充当されたのは、わずか3,000万ドルであった。しかし、翌2009会計年度には、同*40) この項では、米国運輸省のウェブサイト、ジェトロ・ニューヨーク事務所(2018)等を参考としている。*41) 幾つかは後継法との間に数年の間隔があるが、これは議会での調整の結果、後継法が可決されなかったことによるものであり、その間は前法が延長されている。プログラムに通常通り割り当てられた9,000万ドルに加えて、同年度の米国復興・再投資法に基づいて高速鉄道開発等のために80億ドルが充当された。2010会計年度には、高速鉄道回廊及び都市間旅客鉄道サービス資金援助(Capital Assistance for High Speed Rail Corridors and Intercity Passenger Rail Searvice)プログラムに25億ドルが充当されたが、これは先述の80億ドルと合わせて高速都市間旅客鉄道(HSIPR:High Speed Intercity Passenger Rail)プログラムと呼ばれるものである。しかし、2011会計年度以降、これらの予算は急速に落ち込み、連邦予算から高速鉄道開発に大きな予算が充当されることはなくなっている。 HSIPRプログラム自体も、米国各地の幾つかの高速鉄道回廊プロジェクトに多額の投資を行った際、カリフォルニア高速鉄道プロジェクトに約35億ドル、シカゴ~セントルイス回廊改善プログラムに約12億ドルを提供した他は、資金使途が35州の150以上のプロジェクトに細分され、最終的には米国の高速鉄道の開発にほとんど影響を与えなかった(2011年終了)。3.2.2 現在の財政支援メカニズム現在、米国には、かつてのHSIPRプログラムや日本の鉄道・運輸機構のような、高速鉄道あるいは都市間旅客鉄道開発に対する資金援助に専念する大規模プログラムや専門機関が存在しない。現在行われているのは、FRA、運輸長官室、同室の米国構築局を通じて提供される様々な信用援助及び裁量的助成金プログラムなどである。これらのプログラムの規模や有用性は、米国運輸省に割り当てられる毎年の予算額や、承認される新たな法律や時々の政策の方向性の変化を反映し、数年ごとに大きく変化する。近年の米国では、道路交通の他、公共交通等も含めた陸上交通に対する連邦補助金の割当てを規定する授権法(いずれも時限法)が数年ごとに制定されてきた*41。具体的には、先述のISTEA及びTEA-21を含め以下がある(図表3)。70 ファイナンス 2020 Apr.連載日本経済を 考える

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