ファイナンス 2020年4月号 No.653
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む鉄道の経済規制を担当している。米国の鉄道インフラ整備の主な推進役は州政府、地方自治体、民間企業である。連邦政府は大きな目標を確立し、インセンティブを提供することもあるが、インフラプロジェクトは国家レベルから指令されるものではなく、一般的に地方レベルで提案され、連邦政府に対しては規制当局の承認と財政援助を要請する形になる。 連邦法の下において、各州は、鉄道インフラ投資について慎重に検討した上で州鉄道計画(State Rail Plan)を定期的にFRAに提出する。連邦政府の資金援助を受けるには、州鉄道計画への組入れ又は州によるその他の輸送調査が必要である。 現状、民間企業の役割は貨物輸送が主だが、近年では旅客鉄道の開発に関心を持った複数の企業が旅客鉄道プロジェクトを提案しており、中には開発が進んでいるものもある。米国は、日本の全幹法に基づく整備新幹線計画に見られるような体系立った総合的な国家計画を策定していないが、これまでにも米国の高速旅客鉄道の方向性に影響を与える重要な連邦法や国家レベルの計画活動は存在した。例えば、1965年には、人々をより早く、快適かつ安全に大量輸送する必要性から、高速陸上交通法(High Speed Ground Transportation Act)が成立した。これにより最終的には北東回廊のワシントンD.C.とニューヨークを結ぶメトロライナー(Metroliner)*36が誕生したが、速度の面などで「高速鉄道」と呼ぶには不十分なものであった。その後1991年、連邦政府は、総合陸上交通効率化法(ISTEA:Intermodal Surface Transportation Efficiency Act、1992年~1997年)において5つの高速都市間旅客鉄道回廊の指定を承認し、1998年にはそれに続く21世紀に向けた交通最適化法(TEA-21:Transportation Equity Act for the 21st Century、1998年~2003年)において更に6つの回廊を承認した。 これら11の回廊*37の指定は、連邦の財政援助の基礎となるはずだったが、その後は10年以上に亘っ*36) メトロライナーは、1969年に誕生した、ワシントンD.C.~ニューヨーク間を最高時速190kmで走行した列車である。当初はペン・セントラル鉄道が運営していたが、後にアムトラックに移管され、2006年まで運行された。*37) 米国で計画されている高速鉄道回廊は、北東回廊の他にカリフォルニア、シカゴ・ハブ等、一定距離にある特定の大都市間を接続するもので、日本を含む多くの国のように国土を網羅する規模の路線計画ではない。*38) 全国鉄道計画は、米国の人口が25年間で7,000万人増加するという推定を前提に、高速鉄道を含む旅客鉄道の改良を通じて、いかに増加する需要を捌ききるかに焦点を当てた計画である。これは、人口密度の高い地域に競争力のある所要時間の高速鉄道を走らせて利用者を増やし、高速都市間旅客鉄道で各地域を結び付けるということを目標としている。*39) この回廊は、いわゆる東海岸の8つの州(南から順に、メリーランド、デラウェア、ペンシルベニア、ニュージャージー、ニューヨーク、コネチカット、ロードアイランド、マサチューセッツ)とコロンビア特別区からなり、ニューヨークを含む多数の主要都市を縦断する。大部分(363マイル)はアムトラックが所有しており、他の部分はニューヨーク州、コネチカット州、マサチューセッツ州が様々な州政府機関を通じて所有している。てそのような財政援助はほとんど発動されなかった。しかし、2008年の金融危機により、米国の高速鉄道の計画と開発は新たな局面を迎えた。経済危機からの飛躍的な復興を目的とした2009年の米国復興・再投資法(ARRA:American Recovery and Reinvestment Act)により、高速鉄道の戦略計画が議会へ提出され、米国高速鉄道ビジョン(Vision for High Speed Rail in America)が打ち出された。これを踏まえ、2008年の旅客鉄道投資改善法(PRIIA:Passenger Rail Investment and Improvement Act)307条により、米国運輸省は2010年に全国鉄道計画(National Rail Plan)を策定した*38。全国鉄道計画には、以下の3つのタイプの鉄道回廊等が含まれている。・中核的特急回廊(Core Express Corridors):500マイル(800km)までの大都市間を結ぶ専用線で時速125~250マイル(200~400km)の列車を運行する。・地域回廊(Regional Corridors):中都市を接続する既存線と専用線で高頻度の時速90~125マイル(144~200km)の列車を運行する。・新興/フィーダー回廊(Emerging/Feeder Corridors):地方都市を結ぶ既存路線での速度を時速90マイル(144km)程度に向上させる。米国の中でも、連邦政府が鉄道開発に比較的積極的に取り組んでいる地域は、北東回廊(NEC:Northeast Corridor)である。北東回廊は、ワシントンD.C.とボストンを結ぶ重要かつ複雑な467マイル(752km)の鉄道回廊*39で、現在アムトラックがアセラ・エクスプレス(Acela Express)として唯一の高速に近い旅客列車を運行している。アセラ・エクスプレスは、特定箇所で最高速度150 マイル/時(240km/時)で運行しているが、通勤列車と線路を共有していることなどから、平均での速度は日本の新幹線に大きく劣 ファイナンス 2020 Apr.69シリーズ 日本経済を考える 99連載日本経済を 考える

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