ファイナンス 2020年4月号 No.653
72/86

金による民間事業としてリニア方式で建設すると表明したことを受け、2011年に整備計画が決定された。ただし、JR東海自身が示した見通しでは、自己資金による建設をした場合、JR東海の債務が過剰に膨張するため、2027年の品川~名古屋間開業の後、名古屋~新大阪間の工事着工に備えて債務を圧縮する経営体力の回復期間(8年間)が必要とのことであった。これを受けて政府は、名古屋~新大阪間の着工を前倒しすることを目指し、鉄道・運輸機構を経由したJR東海への3兆円の財政投融資を行うこととした*29。このように日本においては、国民経済の発展と地域の振興のために、国がイニシアチブをとりながら長年に亘って計画的に新幹線の建設を進めてきており、リニア中央新幹線も民間主導ではあるものの、国家的な重要事業と位置付けられ、国が財政支援の対象としている。3.米国における高速鉄道投資米国の鉄道産業は、日本等とは違い、基本的に民間企業の集合体として発展してきたという点に特徴がある*30。米国の鉄道は20世紀の初頭には隆盛を誇ったが、旅客輸送の分野では1930年代から短・中距離輸送の主役を自動車に、更に第二次世界大戦後に長距離輸送の主役を航空機に譲り、現在では大幅に縮小している。短距離の旅客輸送に関しては各地に通勤列車(commuter rail)を運営する公営事業者等が存在するが、都市間旅客輸送のほとんどはアムトラックが担っている。なお、貨物輸送の分野においては、現在でも鉄道が陸上輸送の中で大きな位置を占めている。アムトラック(全米旅客鉄道公社/Amtrak)アムトラックは、1970年の鉄道旅客サービス*29) JR東海への財政投融資は、2016年度補正と2017年度で1.5兆円ずつ計3兆円である。据置期間約30年、その後10年間元金均等償還、利率は全期間固定の平均0.86%となっている。*30) 日本国有鉄道外務部(1968)では、発刊当時までの米国の鉄道産業の歴史について「米国の鉄道はその発足(1830年)以来、戦時中を除き終始民営をもって一貫しており、また国の交通政策も伝統的に自由競争を原則としてきた。したがって連邦政府による鉄道への投資は、鉄道初期(1850年当時)に地域開発のために鉄道建設を奨励して国有地の無償下付があった以外はまったく行われておらず、鉄道投資はもっぱら自己負担で行われてきた。」と説明がされている。*31) 同法では、各鉄道会社によるアムトラックへの財政・現物支援と引き換えに、1971年5月以降、都市間旅客列車を運営する義務を緩和し、各社の旅客列車をアムトラックに移転した。*32) アムトラックは形式的には民間企業であるが、実質的に政府の管理下にある。*33) アムトラックは現在、20,000マイル以上の路線を運営しており、48の大陸州のうち46州、コロンビア特別区(ワシントンD.C.)及びカナダの3つの州で500以上の駅を運営している。北東回廊は電化されているが、それ以外ではディーゼル機関車が使用されている。アムトラックが運行する大部分の線路設備は、大半は民間貨物鉄道会社、一部は州及び地方政府機関が所有しているが、ワシントンD.C.からボストンまでの北東回廊に関してはアムトラックが大半を所有している。アムトラックは、ニューヨーク・ペンシルベニア駅、シカゴ・ユニオン駅、フィラデルフィア・30番街駅等幾つかの主要駅も所有している。*34) 当時都市間旅客鉄道を運営していた26社のうち20社が、旅客部門のアムトラックへの移管という政府の申し出を受け入れた。*35) この項では、米国運輸省のウェブサイト等を参考としている。法(Rail Passenger Service Act)*31に基づいて、1971年に設立された旅客鉄道公社*32であり、現在米国最大の都市間旅客鉄道事業者である*33。第二次世界大戦後、特に1960年代に旅客輸送の多くが鉄道から自動車や航空機に転移していく中で、各社の旅客列車の存続が危ぶまれたことから、全米の鉄道会社の旅客部門を統合・公営化し誕生した*34。他方、線路施設と貨物部門に関しては各地の鉄道会社が引き続き運営・保有している。1976年には、ペン・セントラル鉄道の倒産に際し、同社が保有していたワシントンD.C.からボストンまでの北東回廊の路線の大部分をアムトラックが取得した。アムトラックは恒常的な赤字経営であるが、政府による継続的な財務及び運営面での支援のもと現在まで存続している。3.1 米国政府の高速鉄道計画*35米国政府の高速鉄道計画が日本と大きく異なる点は、連邦政府が高速鉄道の開発において決定的な役割を果たしていないことである。連邦制度の下で州政府が強い権限を持つため、連邦政府の役割は、総合的な計画と技術的支援、安全・環境規制、及び年度ごとの財政支援に限定されている。 米国運輸省(USDOT:United States Department of Transportation)の連邦鉄道局(FRA:Federal Railroad Administration)は、貨物鉄道、都市間旅客鉄道、通勤鉄道(commuter rail)を含む業界全体の安全に関する規制・監視を所轄している。 FRAはまた、さまざまな助成プログラムを通じて鉄道の発展を促進している。対照的に、米国運輸省から独立した裁定機関及び規制機関である陸上運輸委員会(STB:Surface Transportation Board)は、路線の建設、取得、廃止や貨物鉄道の運賃等を含68 ファイナンス 2020 Apr.連載日本経済を 考える

元のページ  ../index.html#72

このブックを見る