ファイナンス 2020年4月号 No.653
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や主要在来線幹線等多くの重要な路線を建設した*19。一方で、不採算な地方路線が多数建設されたとの批判もある*20。鉄建公団は、2003年に運輸施設整備事業団と共に独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)に統合され、役割を引き継いだ。鉄道・運輸機構は、鉄建公団から引き継いだ整備新幹線などを含めた鉄道路線の建設、鉄道助成等多くの事業を担っている。1987年の国鉄改革以降に着工した整備新幹線5路線は、鉄建公団又は鉄道・運輸機構が国などの支援を得て建設主体となり、完成後の線路施設をJRに有償で貸し付ける形になった*21。現在建設中の整備新幹線の建設費負担は、開業後の需要予測に基づきJRの受益の範囲で貸付料(30年間定額)を決定し*22、それを差し引いた残りの金額の2/3に国費(公共事業関係費及びJRの支払う既設新幹線の譲渡収入の一部*23)を充て、1/3を地方負担(沿線自治体の負担)とするこ*19) 鉄建公団が建設した主要幹線には、京葉線、湖西線、(津軽)海峡線等がある。この他、1972年度からは大都市における民営鉄道線(P線)の建設等も行っている。*20) 藤井(1998)によれば、運輸大臣の諮問機関である鉄道建設審議会を舞台として有力政治家たちが、「新線建設の手続きのなかで、事実上の『最高決定機関』」(朝日新聞1982年10月29日付朝刊)として数々の無謀な新線建設計画を強行してきたという経緯があり、これには赤字路線を引き取らされる国鉄の意向は基本的に反映されていない。*21) ただし、当初の1973年11月13日に決定した整備計画では、盛岡市~青森市間の東北新幹線、九州新幹線(鹿児島ルート)及び九州新幹線(長崎ルート)の建設主体は国鉄とされていた。その後、1987年に国鉄改革の一環として、「旅客鉄道株式会社が建設主体とされている新幹線鉄道の建設に関する事業の日本鉄道建設公団への引継ぎに関する法律」が施行されたことに伴い、JRの同意の上で整備新幹線の建設主体が鉄建公団に一本化された。*22) 2013年度以降、将来支払われる予定の整備新幹線の貸付料を、借入金によって前倒し活用し、貸付料等に含んで活用するようになった。*23) 既設新幹線の譲渡収入とは、国鉄改革時に既に開業しており、国鉄改革後も国(新幹線鉄道保有機構)が線路施設を保有していた既設4新幹線(東海道新幹線、山陽新幹線、東北新幹線の東京~盛岡間、上越新幹線)を、1991年にJR各社に売却して国が得た収入である。鉄道建設・運輸施設整備支援機構(2019)等によれば、これは2018年度を除き、1992年度から整備新幹線の建設費に充てられている。*24) 地方負担に関しての過去のスキームも含む詳細については、八矢(2015)に詳しい。*25) 国費は2005年度以降2019年度まで700億円台で推移してきたが、2020年度予算には人件費の高騰や耐震性強化等に伴って建設費が上振れしたのに対応し、804億円が盛り込まれている。*26) この項では、リニア中央新幹線のウェブサイト、財団法人鉄道総合技術研究所(1997)、JR東海(2007)等を参考としている。*27) 財団法人鉄道総合技術研究所(1997)によれば、国鉄では鉄輪によらない超高速鉄道の研究は1960年代から進められている。リニア中央新幹線に採用される超電導磁石を用いた電磁誘導浮上方式は、1970年の高速鉄道講演会と世界鉄道首脳者会議で国鉄が開発を表明し、国鉄の鉄道技術研究所(後の財団法人鉄道総合技術研究所)が中心となって開発を進めてきた。超電導方式は、既に実用化されている愛知高速交通東部丘陵線《リニモ》や上海トランスラピッドの常電導方式よりも更に技術的飛躍の大きいものである。リニア中央新幹線の営業最高速度は、時速500kmを予定している。*28) 中央新幹線:東京都~大阪市(主要な経過地:甲府市附近、名古屋市附近、奈良市附近)とになっている。ただし、地方負担については、地方債(充当率90%)で賄うことが認められ、その元利償還金の50~70%を交付税措置することになっている*24。2020年度予算では、整備新幹線の総事業費は4,430億円、うちJRの支払う貸付料等が3,224億円、国費は804億円、これに対応する地方負担は402億円となる。図表2の通り、政権交代などを経ても毎年の国費の支出額は安定的に確保されている*25。2.3 リニア中央新幹線*26現在、品川~名古屋間でリニア中央新幹線(品川~新大阪)の建設が進んでいる。「リニア」は、磁気で軌道から浮上しリニアモーター駆動で走行するもので、日本では国鉄時代から研究がされてきた技術である*27。リニア中央新幹線は、全幹法上の基本計画路線ではあったが長年整備計画が決定されていなかった中央新幹線*28に相当し、機能的には東海道新幹線のバイパスと位置付けられている。2007年にJR東海が自己資図表2  新幹線建設事業費の推移 (2019年度までは実績、2020年度は予算)5001,0001,5002,0002,5003,0003,5004,0002020201920182017201620152014201320122011201020092008200720062005200420032002200104,500(億円)(年度)国費(公共事業関係費・JRの支払う既設新幹線の譲渡収入の一部 )その他(JRの支払う貸付料・地方負担等)(出典)国土交通省関係予算事業費・国費総括表等より筆者作成 ファイナンス 2020 Apr.67シリーズ 日本経済を考える 99連載日本経済を 考える

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