ファイナンス 2020年4月号 No.653
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大宮~盛岡開業)、上越新幹線(1982年大宮~新潟開業)及び成田新幹線(建設中止*11)の基本計画及び整備計画が決定された。上記3路線に続き、1973年に整備計画が決定されたのが、「整備新幹線」と呼ばれる図表1の5路線である。整備新幹線の建設は、国鉄再建の一環等として計画が凍結された1982年から1988年までを除き、現在まで継続的に進められている。図表1 整備新幹線の路線一覧・北海道新幹線:青森市 ~ 札幌市(主要な経過地:函館市附近、小樽市附近)・東北新幹線:盛岡市 ~ 青森市(主要な経過地:八戸市附近)・北陸新幹線:東京都 ~ 大阪市(主要な経過地:長野市附近、富山市附近、小浜市附近)・九州新幹線(鹿児島ルート):福岡市 ~ 鹿児島市(主要な経過地:熊本市附近、川内市附近)・九州新幹線(長崎ルート/西九州ルート):福岡市 ~ 長崎市(主要な経過地:佐賀市附近)現在、整備新幹線の建設にあたっては、以下の5つの条件を満たすこととされている*12。1. 安定的な財源見通しの確保2. 収支採算性3. 投資効果4. 営業主体であるJRの同意5. 並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意上記4.にあるように、民営化の趣旨に鑑み営業主体となるJRの同意を必要としている点は、国鉄当時との大きな違いである。また、5.にある並行在来線(整備新幹線区間を並行する形で運行する在来線鉄道)の経営分離は、整備新幹線の開業後、JRにとって新幹線に加えて並行在来線を経営することは過重な負担となる場合があるため、沿線全ての道府県及び市町村から同意を得た上で、整備新幹線の開業時に並行在来線の経営を分離するものである。その際、多くの場合赤字の*11) 新東京国際空港(現在の成田国際空港)へ接続する予定だった「成田新幹線」(東京都~成田市)は、1974年に着工したが、住民の強固な反対等により工事が中止された。その後1987年の国鉄改革に伴う全幹法改正の際に、基本計画及び整備計画は失効している。*12) 2009年12月24日の「整備新幹線の整備に関する基本方針」(整備新幹線問題検討会議決定)に基づく。*13) この項では、国土交通省(N.D.)、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(2019)、日本鉄道建設公団(1995)、日本国有鉄道(1974)等を参考としている。*14) 東北新幹線のうち、1991年に開業した東京~上野間については、国鉄が一部を施工した状態で1987年の国鉄改革を迎え、同線を新幹線鉄道保有機構が保有することになったのに伴い、以後は同機構が建設主体に指名された。ただし、実際の残り部分の建設はJR東日本に委託された。また、盛岡~新青森は整備新幹線区間である。*15) 融資はすでに全額が返済されている。世界銀行東京事務所(N.D.)によれば、このほか1953年から1966年の間に世界銀行は日本に対して発電所、製鉄所、高速道路の建設等31件の融資を行っている。*16) 上越新幹線及び後に建設中止になった成田新幹線は、1971年に東北新幹線と同時に基本計画及び整備計画が決定されたが、東北新幹線は国鉄、上越新幹線及び成田新幹線は鉄建公団が建設主体に指名されている。*17) 日本鉄道建設公団(1995)によれば、このような状況に対し、「(前略)鉄道新線の建設は、一般国民に与える有形無形上の便益の増大と国家経済に与える効果の多大なることに鑑み、国家的な政策上の見地から論ずるべきであり、日本国有鉄道の企業的立場からのみこれを論ずべきではないことは明らかである。」(鉄道建設審議会第36回審議会「鉄道敷設法第4条第3項に基づく鉄道新線に関する建議」)といった意見があった。この点は、日本国有鉄道(1973)にある通り、国鉄の発足当初から指摘されていたことである。*18) 路線としては、上越・北陸新幹線の東京~大宮間は東北新幹線、北陸新幹線の大宮~高崎間は上越新幹線の区間である。並行在来線を第3セクターの形で引き受ける沿線道府県にとって、大きな財政上の負担になるため、この経営分離は沿線自治体等との間で議論となる点である。2.2 新幹線建設のための資金調達*13新幹線の中でも初期に建設された東海道新幹線、山陽新幹線、及び東北新幹線の一部(上野~盛岡)*14は、国鉄が建設主体となって建設された。整備資金は、自己資金の他、借入金(財政投融資借入金及び民間金融機関からの借入金)及び鉄道債券によって調達されていた。東海道新幹線の建設の際には、国鉄は世界銀行から8,000万ドルの融資を受けている*15。上越新幹線及び成田新幹線*16については、国鉄ではなく日本鉄道建設公団(鉄建公団)が建設主体に指名され、国からの出資金等を財源として建設した。日本鉄道建設公団(鉄建公団)/ 鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)高度経済成長期には、急激な生産力増大にインフラ整備が追い付かないことが産業発展の偏重をもたらし、経済成長を阻害するなどの問題が指摘されていた。特に新線建設は、道路の様な特定財源がなく、国鉄の「独立採算制」の建前と既存路線の改良等に追われる中で、強い予算制約を受けていた*17。そこで1964年、新線を建設する余力のない国鉄に代わって公共事業として新線を建設し、完成した鉄道施設を国鉄に貸付又は譲渡することを目的とした日本鉄道建設公団が設立された。財源としては、国と国鉄からの出資金の他、財政投融資資金、特別債、民間借入金等が充てられた。鉄建公団は、上越新幹線(大宮~新潟)、北陸新幹線(高崎~長野*18)、東北新幹線(盛岡~八戸)66 ファイナンス 2020 Apr.連載日本経済を 考える

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