ファイナンス 2020年4月号 No.653
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嘗ての国有鉄道を分割民営化した日本と民間鉄道会社の旅客部門を統合し公社化した米国という対照的な鉄道改革の在り方や、大半の線路施設をJR*4旅客会社が保有する日本と民間の貨物鉄道会社が保有する米国という現在の体制も対比をなしているといえる。3点目は、国家機構の権限や意思決定過程の違いである。日本では、政府が安定的に予算を配分しながら国土開発の一部として計画的に新幹線の建設を進めてきたが、州権の強い米国では、連邦政府の役割は高速鉄道計画の構想と財政面等の支援を行うことなどに留まっている。これは米国に高速鉄道を支持するという政治的なコンセンサスが希薄であることも大きな要因である。本稿では、両国のこうした違いのうち、特に高速鉄道等に纏わる計画や資金調達面について紹介したい。本稿の構成は下記の通りである。まず、次項第2節では、日本の新幹線投資に関し、これまでの全国的な新幹線整備の計画と建設資金調達について説明する。続く第3節では、米国政府の高速鉄道計画と様々な財政支援策について述べる。最後の第4節は結語である。2.日本の新幹線投資2.1 日本政府の新幹線計画*52.1.1 東海道新幹線・山陽新幹線現在の日本には路線として7つの新幹線があるが、その計画の性質は東海道新幹線及び山陽新幹線とその他の新幹線で大きく異なる。日本で最も早く開通した新幹線は、日本国有鉄道(国鉄)*6の時代の東海道新幹線(東京~新大阪/1964年開業)である。東海道新幹線は、戦後復興と高度経済成長の中で、旅客・貨物が共に激増していた東海道本線の需給逼迫を緩和することを目的として計画された。その後、東海道新幹線*4) JRグループ各社の名称は「北海道旅客鉄道株式会社」「東日本旅客鉄道株式会社」「東海旅客鉄道株式会社」「西日本旅客鉄道株式会社」「四国旅客鉄道株式会社」「九州旅客鉄道株式会社」「日本貨物鉄道株式会社」である。本稿では全て「JR」の呼称を用いる。*5) この項では、運輸省(1988)、国土交通省(N.D.)、日本国有鉄道(1974)、日本鉄道建設公団(1995)、福井(2012)等を参考としている。*6) 日本国有鉄道(国鉄)とは、現在のJRの前身の国有企業である。戦後の1949年に、それまで国家の直営事業だった鉄道を公共事業体として分離して設立された。予算は戦前から特別会計の一つだったのが政府関係機関予算に移され、独立採算制がとられた。経営上の様々な構造的な問題を抱えていた国鉄は、後に大きな赤字を抱えて事実上経営破綻し、1987年の国鉄改革で現在のJR7社等に分割民営化された。国鉄改革については、国土交通省鉄道局(2017)を参照されたい。*7) 全国新幹線鉄道整備法は、大規模開発を志向し、1969年に策定された新全国総合開発計画(新全総、二全総)の時代に策定されたものである。同計画においては、新たに建設すべき新幹線路線として、後の計画に繋がるいくつもの路線が列挙されており、全国的な新幹線網の整備が構想されている。*8) 「山形新幹線」及び「秋田新幹線」は、営業上は新幹線として扱われているが、これらは在来線を標準軌に改軌(在来線の線路幅を新幹線規格に改造)して新幹線と直通運転したもの(ミニ新幹線)で、第2条の「新幹線鉄道」にはあたらない。一方で、後述するリニア中央新幹線は、技術的には従来の鉄道とは大きく異なるものであるが、全幹法上の「新幹線鉄道」として扱われる。*9) 当初、営業主体は国鉄、建設主体は国鉄または鉄建公団と定められていたが、国鉄改革に伴う1986年の全幹法改正で運輸大臣(後の国土交通大臣)が指名することになった。*10) 整備計画には、走行方式、最高設計速度、建設費概算額等が含まれる。を新大阪以西へ延伸する形で山陽新幹線(新大阪~博多/1975年全線開業)が整備されたが、これも東海道新幹線と同様、山陽本線の輸送力増強を主たる目的として計画されたものである。2.1.2  東北新幹線・上越新幹線・整備新幹線5路線等東海道新幹線及び山陽新幹線以外の新幹線建設は、「国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興(現在の全国新幹線鉄道整備法第1条)」に資することなどを目的とし、国土の総合的かつ均衡ある発展に資するための高速交通体系を整備する観点から計画されている。これは、戦後日本の国土開発計画が、長らく国土の均衡ある発展を基本的な考えとしてきたことに沿うものである*7。全国新幹線鉄道整備法(全幹法/1970年施行)全国新幹線鉄道整備法は、新幹線を全国的に整備していくことを定めた法律である。「新幹線鉄道」の定義については、第2条において「主たる区間を列車が二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道*8」と定めている。具体的な新幹線計画は、運輸大臣(後の国土交通大臣)が「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」(基本計画)を公示して定めることになっている。当該基本計画を決定した後、必要な調査と営業主体及び建設主体の指名*9を経て、「基本計画で定められた路線の建設に関する整備計画」(整備計画)*10を決定する。1971年には、東海道新幹線及び山陽新幹線に続く3路線として、東京~盛岡間の東北新幹線(1982年 ファイナンス 2020 Apr.65シリーズ 日本経済を考える 99連載日本経済を 考える

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