ファイナンス 2020年4月号 No.653
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html日本と米国の高速鉄道投資の比較財務総合政策研究所 研究員瀬領 大輔*1シリーズ日本経済を考える99財務省財務総合政策研究所では、2020年1月に、米国のマイク・マンスフィールド・フェローシップ法に基づくマンスフィールド研修の一環として、米国運輸省リオポルド・ウェチュラ氏を研修員として受け入れた。ここでは、同氏が同所総務研究部所属の瀬領研究員と共に行った日米の高速鉄道投資に関する調査について、その一部を紹介したい。なお、紙幅の関係で本稿に収録しきれなかった内容を含む調査の全容については、財務総合政策研究所ウェブサイト(https://www.mof.go.jp/pri/international_exchange/visiting_scholar_program/Seryo_Leopold.pdf)に詳細な報告書を掲載している。*1) 本稿に含まれる情報は、特に注記のない限り2020年1月初旬時点のものとなっている。また、年号は西暦で表している。一連の研修及び執筆にあたっては、財務総合政策研究所総務研究部の水尾佑希主任研究官、虫明英太郎研究員ほか、各位に多大なご協力をいただいた。厚く御礼申し上げる。本稿の内容に含まれるものはすべて両筆者個人の意見であり、所属する組織の公式見解を示すものではない。また本稿における誤りはすべて両筆者の責に帰する。*2) 日本のJR東海が協力しているテキサス・セントラル・レールのプロジェクトが代表的である。米国で進んでいる高速鉄道プロジェクト等については、冒頭に記載した詳細な報告書を参照されたい。*3) 国連人口推計2019年度版によれば、2019年の一平方キロメートル当たり人口は、米国が30人に対し、日本は348人である。1.はじめに*1『新幹線』は、戦後焼け跡の中から復興し、世界第二位の経済大国に昇り詰めた日本の技術力と経済力を象徴する「『夢』の超特急」として、半世紀以上に亘って日本国民の故郷に路線網と『夢』を拡げてきた。交通機関としての日本の新幹線の特徴と優位性は、最高速度等技術面において語られがちだが、国土開発の基軸としての新幹線の計画と建設資金調達のスキームも、国民及び関係者が長年重ねてきた議論と試行錯誤の所産である。他方で米国では、歴史的に鉄道産業を民間が担ってきたことや不安定な政策環境等により、高速鉄道に対しては長らく消極的な状況が続いていた。しかし、近年幾つかの高速鉄道プロジェクトが実現へ向かっており、そのような中で他国に先駆けて整備が進んできた日本の新幹線が注目され、中には日本の新幹線システムを導入するプロジェクト*2も計画されている。両筆者は、日米の高速鉄道の発展にこのような差が生じた要因について、様々な観点からの調査を通じ、両国の鉄道産業を取り巻く環境の違いとして、主に次の3点を纏めた。1点目は、両国の地理条件と人口動態の違いである。日本では狭い可住地に多くの人口が集まっているが、一方の米国は、国全体として見た人口密度は日本の1/10に満たない*3。それ故に、日本では国土全体をカバーする新幹線計画が存在する一方、米国では高速鉄道の需要が見込める特定の回廊に対象を絞った計画が構想されている。2点目は、長年に亘って国家が鉄道事業を主導してきた日本と鉄道産業を民間が担ってきた米国との歴史的背景の違いである。米国運輸省 運輸長官府/政策担当運輸次官府 米国構築局プロジェクト開発主任リオポルド・ウェチュラ(Leopold Wetula)64 ファイナンス 2020 Apr.連載日本経済を 考える

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