ファイナンス 2020年4月号 No.653
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といい形で教えたいと思うのです。プロの世界では、素質のある選手ばかりが入ってきています。ほかのチームにも良い選手が入ってきていますので、結果を出すことはなかなか難しいのです。しかし、そこを少しずつ前に進んでいくことで、ものすごく意欲が出ます。私は、教える立場になった時に、選手に気付かせる、目覚めさせるという喜びを感じました。私は、自分の言葉には気を付けています。私の場合、現役時代の実績というものが付いて回りますので、私が発言すると、コーチが重く受け止めてしまうことがあります。私が言ったことを大げさに取られてしまうといけないので、どうしても言葉が控え目になります。選手に対しても同じで、考えさせることが目的ですから、言葉には一番気を遣っています。特に、この選手には何が必要なのかという見極めとそれに対する言い方です。選手の欠点を直すのは大変難しいのです。そのため、欠点を直すのではなく、良いところを見つけて伸ばしてあげることがアドバイスのコツだと思います。6.やり過ぎを恐れるなプロの世界である程度やっていると、スランプは当然あります。このほかに、やり過ぎというのもあるのです。練習のやり過ぎとか考え過ぎなどです。それは絶対に必要なことです。考え過ぎない人、練習をし過ぎない人は絶対に伸びない。やり過ぎて失敗する、考えすぎて失敗するというのは大いにあってしかるべきだと思います。やはり前に出ないと次のステップにはいかないのです。昔、「限界に挑戦」という言葉がありましたが、今では、手や足をすり減らすようなスパルタは少し聞こえなくなってきました。私は、大人が斟酌して、若者の才能に傷が付かないように迂回させるのはあまり良くないと思います。誰でも通らなければならない道は通るべきなのです。やってみて、やれた、という経験がないと次のステップに上がっていかないと思うのです。チャレンジして乗り越えられた人は、乗り越えられた人なりに頑張れると思いますし、失敗したら失敗したで、自分で考え、違う道で頑張っていくことができるのです。私は「七転び八起き」という言葉が好きです。転ばないと前に進めないのです。そういう点では私はこれまであまり失敗をしてきませんでした。戦争が終わった時は5歳でしたが、自分の家が中華そば屋だったので、食べることに不自由したことがないのです。私と同じような年齢で食べることに苦労しなかった人はほとんどいなかったでしょう。そういった意味では辛い思いもしていません。私は苦労が足りなかったのかなと思います。もう少し苦労していれば、もっと伸びたのかもしれません。7.目標を持つことの大事さ私は4番打者を長く務めました。4番打者というのは、自分が打たねばならないという責任が出てきます。打たないとどうしても敗戦責任者のようになってしまうのです。2、3、5番の各打者とは異なり、4番打者は孤独なのです。しかし、4番打者はほかの人には味わえない部分を味わえます。また、自分の目標についても、高くて難しいところに焦点を向けられます。そこで、私は3試合に1本ホームランを打つことをノルマにしました。当時は年間130試合ありましたので、43本ホームランを打てばその年はノルマを果たし、満足のいくシーズンということになります。しかし、43本打てない時は、たとえホームラン王になったとしても満足できないと考え、常に3試合で1本はホームランを打つことを自らに課したのです。しかし、コンスタントに打てるわけではありません。7、8試合ホームランが出ないこともありますし、1試合で何本も打つ時もあります。均してだいたい3試合で1本ということになります。私はホームラン43本という目標を自分で設定し、それに向かって突き進みました。そして、いつの間にかホームラン数を43本前後にもっていくことができたのです。このように、自分なりの目標やノルマをしっかり持って、それに突き進むことが大事だと思います。私は気持ちも大事だと思います。技術は身に付ける ファイナンス 2020 Apr.59職員トップセミナー 連載セミナー

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