ファイナンス 2020年4月号 No.653
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財務総合政策研究所Ministry of Finance, Policy Research Institute1.はじめに御紹介いただきました王です。今年はオリンピックの年ということで、スポーツ界は大変盛り上がっています。1964年の東京オリンピックの時には、長嶋茂雄さんと一緒に「ON五輪をゆく」という報知新聞の企画で、大会期間中ずっと、バレーボール、陸上競技、水泳の会場などで一ファンとして観戦させていただきました。とにかく想像を絶する観客の数と熱気に圧倒され、世界には上のレベルの人たちがいるなという思いを強くいたしました。とにかく日本の選手とはタイムが違う、距離が違うのです。前回の東京オリンピックは、日本が羽ばたくための良い機会だったのではないかと思っています。前回のオリンピックの年は、私が本塁打55本という日本記録を達成した年でした。オリンピックで日本が盛り上がった時にこうした記録を達成できたのは、皆さんから背中を押してもらって大きなパワーを出すことができたからだなと感じています。日本が今後飛躍するためにも、是非今年のオリンピックも成功してほしいと思っています。さて、近代オリンピックの父であるクーベルタン男爵が「スポーツは参加することに意義がある」と言ったように、かつては勝負や結果についてあまり考えない戦いが行われてきました。日米野球も、親善野球という形で、米国の選手は奥さんを連れ、ゴルフバッグを持って観光気分でやってきたのです。それでも日本は勝てなかったのです。しかし、今では、野球の国際大会「第2回プレミア12」でも日本が優勝し、また、日本の選手が米国に行って活躍するようにもなりました。特に投手の方は米国でもかなり良い仕事をしており、「日本の投手なら何人でも採るよ」という声が掛かります。残念ながら、打者の方はなかなかそこまでの活躍をすることができていないので、大谷翔平選手には大いに期待したいと思います。日本の野球界もかなりレベルが上がりましたし、野球の進め方もだいぶ緻密になってきましたので、そういった意味では、我々がやってきた50年前、60年前の野球とはかなり違うということになります。おそらく戦前の野球も、我々がやっていた頃の野球と比べると、そのレベルには達していなかったのではないかと思うのです。このように、時を経ることによって、レベルは上がっていくのです。野球だけでなく、今の日本のスポーツ界はレベルが大変上がりました。例えば、陸上競技の100メートル走では、これまではどうしても10秒を切れなかった時代が続きました。しかし、今では日本でも9秒台で走る人も出てきました。また、70年ほど前には、水泳で古橋広之進さんと橋爪四郎さんが全米選手権に招待され、1,500メートル自由形で1位、2位になりました。このときのタイムは18分19秒でした。しかし、今なら15分を切るでしょう。日本人の体格も大きくなってきていますし、トレーニング方法も素晴らしいものになっていますので、スポーツの世界でもほかの国の選手と互角に勝負できるようになっているのではないかと思います。令和2年1月16日(木)開催職員 トップセミナー王 貞治 氏(福岡ソフトバンクホークス株式会社取締役会長)「野球が教えてくれたもの」演題講師56 ファイナンス 2020 Apr.連載セミナー

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