ファイナンス 2020年4月号 No.653
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金融システム全体に与える影響をどう評価するか、(3)低炭素経済と整合的な金融を拡充する上での課題を検討した。2019年4月には、最終報告書を公表し、気候関連リスクを金融リスクの一因であることを明示した上で、気候関連の金融リスクが資産評価に十分反映されていないことは大きなリスクとし、集団的リーダーシップと世界規模の協調的行動が必要と結論付けた。この動きを受けて、実際にフランスやイギリスの中央銀行総裁が気候変動リスクへの耐性を測るストレステストの実施を表明するなど、欧州各国では金融機関の適切な監督に向けて対応が進みはじめている。(4)環境金融(機関投資家)まず、機関投資家の行動を理解する上で重要なものがESG投資である。ESG投資とは、定量的な財務情報に加え、非財務情報である、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の三要素を考慮した投資(運用)のことを指す。2006年4月、当時のアナン事務総長の提唱により、国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEPFI)が主導となって「責任投資原則(PRI)」が打ち出され、ESG投資のコンセプトが示された。PRIは、投資家に対し、企業分析・評価を行う上で長期的な視点を重視し、ESG情報を考慮した投資行動をとること等を求めており、お金を出す側である投資家の行動が変わることで、お金を受ける側である企業の行動が持続可能な方向へ一層促されることが期待されている。PRIの署名機関は右肩上がりに増加しており、足元では2,000を超える機関が署名するなど、機関投資家にとって、ESG投資は投資の基本原則と言えるものになりつつあると言える。ESG投資の手法としては、Global Sustainable Investment Alliance (GSIA)がポートフォリオの選択・管理においてESG要素を考慮する投資アプローチを「サステナブル投資」と定義し、7つの手法に分類している。特に化石燃料からの投資の引き上げを意味する「ダイベストメント」や、株主としてESGに関する案件に働きかける「エンゲージメント」の実施は増加傾向にあり、企業にとってもESGは企業価値を高めるという観点から重視すべきものになっている。世界最大級のアセットマネジメント会社であるブラックロックのCEOを務めるラリー・フィンク氏は、投資先企業と顧客投資家に対する年次書簡(2020年2月)のなかで、気候変動が企業の長期業績を決定する主因になりつつあるとし、投資収益に対するサステナビリティの影響が増大しているため、サステナブル投資は今後の顧客ポートフォリオの最も強力な基盤になると言及した。そして、気候変動対応について情報開示が著しく不十分な企業には議決権行使の際に反対票を投じる、売上の25%以上を石炭から得ている企業への投資を引き上げる等の具体的な方針を公表し、ESGを軸にした運用を強化することを表明した。世界を代表する投資家の強いメッセージは、遅かれ早かれ世界中の投資家の投資スタンスに影響を与えていくだろう。(5)環境経営投資家のESG投資に対する意識の変化から、企業においても環境に関する取組みが進んでいる。例えば、Science Based Targetsイニシアティブ(SBTi)は、企業に対し、気候変動による世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べ、最大でも2度未満に抑えるという目標に向けて、科学的知見と整合した削減目標〈ESG投資の手法〉ネガティブスクリーニング特定のESG基準に基づいて、特定のセクター、企業又は慣行をファンドまたはポートフォリオから除外。ポジティブスクリーニング同業他社と比較してESGパフォーマンスが優れたセクター、企業、又はプロジェクトを選定して投資。規範に基づくスクリーニング国際規範に基づきビジネス慣行の最低基準を満たさない投資を除外。ESGインテグレーション投資マネジャーが財務分析に環境、社会、ガバナンスの要素を体系的かつ明示的に組み込む。サステナビリティテーマ投資持続可能性に関連する特有のテーマや資産への投資(クリーンエネルギー投資、グリーンボンド等)。インパクト投資社会・環境問題の解決を目指して対象を絞った投資、伝統的に恵まれない個人へのコミュニティ投資。エンゲージメント・議決権行使株主として企業に対してESGに関する案件に積極的に働きかける手法。株主総会での議決権行使、日常的な経営者へのエンゲージメント、情報開示要求などを通じて企業にESGへの配慮を迫る。52 ファイナンス 2020 Apr.連載海外経済の 潮流

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