ファイナンス 2020年4月号 No.653
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けた国内対策をとる義務を負うこととなった。当然パリ協定には課題もあり、排出削減目標の達成自体は義務とされていないことや、各国の提示している排出削減目標を足し合わせても2℃目標を達成できないとの試算もあるなど、目標達成のためには、各国政府により踏み込んだ対応が求められることには留意したい。パリ協定が採択された2015年には、持続可能な開発サミットにおいて2030年までの国際社会共通目標である「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。このアジェンダの中核を成すものが17の国際目標を掲げる持続可能な開発目標(SDGs)であり、気候変動もその中に含まれている。後述する責任投資原則(PRI)に基づく投資家と、SDGsに賛同する企業が、それぞれの目標や原則に従って行動することで持続可能な社会を実現する、ということが人類の未来にとって不可欠なことだと考えられているのである。以上のように、2015年には、パリ協定、SDGsといった重要な国際的な枠組みが登場し、これらが世界の気候変動への取組みをより一層促していくことになる。(2)環境情報開示気候変動に関する情報開示については、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が提言を行っている。TCFDとは、G20の財務大臣・中央銀行総裁からの要請を受け、金融安定理事会(FSB)の下に設置された作業部会で、投資家等に適切な投資判断を促すための気候関連財務情報開示を企業等へ促すことを目的とするものである。TCFDは、全ての企業に対して、(1)2℃目標等の気候シナリオを用いて、(2)自社の気候関連リスク・機会を評価し、(3)経営戦略・リスクマネジメントに反映、(4)その財務上の影響を把握、開示することを推奨している。2017年に公表された提言では、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」といった観点からのフレームワークを示しており、2020年2月現在、世界の1,027機関、日本の252の機関が賛同するなど、企業や投資家が気候変動に関する情報開示を考える上で規範となっている。(3)環境金融(中央銀行・金融監督当局)前述のTCFDは、二種類の気候関連のリスクを特定している。一つ目のリスクは、「物理的リスク」であり、自然災害のような急性のリスクや異常気象のような慢性のリスクである。具体的には、保険負債や金融資産への影響、異常気象による取引の混乱、気候変動により発生する食料・エネルギー・資源の安全保障に対するリスクがあげられる。二つ目のリスクは、「移行リスク」であり、これは低炭素、そして最終的にはゼロ炭素経済に向かう調整プロセスによる影響を指す。例えば、テクノロジーの革新や政府の政策の変更は、製品・サービスへの規制、需要と供給の変化、訴訟の増加等、様々なコストを発生させる可能性がある。特に2℃目標の達成に向けては、温室効果ガス排出量を抑えることの出来る革新的技術が活用できない場合、化石燃料の可採埋蔵量の半分以上が活用できないとのOECDの試算結果もあり、不良資産化を回避できない資産(座礁資産)が発生する可能性もある。これらのリスクを踏まえると、突然の資産価格の変動リスク等の観点から気候変動、そして気候変動への対応は金融システム全体に大きな影響を及ぼす可能性があることが指摘されている。そこで、重要な役割を担うのが、各国の中央銀行や金融監督当局である。中央銀行・金融監督当局のネットワークであるNetwork for Greening the Financial System(NGFS)が気候変動リスクへの金融監督上の対応を検討するために、2017年に設立された。NGFSでは、主に(1)金融機関の監督に気候変動をどのように取り入れていくべきか、(2)気候変動が〈TCFDが提言する開示基礎項目の内容〉ガバナンス(Governance)気候関連のリスクと機会に係る、取締役会による監視体制などの当該組織のガバナンスや経営の役割を開示戦略(Strategy)気候関連の短期・中期・長期のリスクと機会がもたらす当該組織の事業、戦略、財務計画への現在および潜在的な影響を開示リスク管理(Risk Management)気候関連リスクについて、当該組織による識別、評価、管理のプロセスと、そのプロセスが組織の総合的リスク管理にどのように統合されているかについて開示指標と目標(Metrics and Target)気候関連のリスクと機会を評価および管理する際に用いる指標と目標、およびその実績について開示 ファイナンス 2020 Apr.51コラム 海外経済の潮流 127連載海外経済の 潮流

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