ファイナンス 2020年4月号 No.653
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コラム 海外経済の潮流127大臣官房総合政策課 古市 庸平グローバルな潮流としての気候変動対応1.気候変動問題への意識近年、世界中で大型の台風や集中豪雨、干ばつ、熱波などの異常気象に伴う災害が発生し、甚大な被害がもたらされた。国際決済銀行(BIS)の“The green swan”(2020)のレポートによれば、2000年代前半から、自然災害の発生数やその災害による損失は右肩上がりに増加している。記憶に新しいベネツィアでの洪水、オーストラリアでの大規模な森林火災、そして去年日本に甚大な影響を与えた台風19号・21号の勢力増大についても気候変動による影響が指摘されている。昨年、メディア等で注目されたスウェーデンの環境活動家であるグレタ・トゥンベリさんの国連の気候変動サミットでの演説も、世界中で気候変動に対する意識が高まる一つのきっかけになったと思うが、それだけではない。実際に人やモノへの直接的影響や、人や企業の経済活動への影響が大きくなってきており、必然的に気候変動対応を軽視できなくなってきたと言える。約1000名の専門家や企業経営者等に対して調査を実施し、2020年1月に公表された世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書においても、今後10年で発生可能性の高いリスクの上位5つが全て環境関連のリスクとなった。気候変動対応については、近年で急に議論されるようになったわけではない。1992年の気候変動枠組条約にはじまり、2015年に採択されたパリ協定等、世界中で議論され続けてきた。特に欧州圏は、過去に経験したシュヴァルツヴァルト(ドイツの“黒い森”)に代表される酸性雨の被害やチェルノブイリ原発事故、現在も頻発する高潮の被害もあり、環境への意識が高いと言われている。現在、環境先進国とも言える欧州が主導するかたちで気候変動対応に関する取組みが各国政府・中央銀行・企業等の間において急ピッチで進んでいる。こうした動きに取り残されないためにも、世界の気候変動対応を幅広く整理したいと思う。2.世界での気候変動への取組み昨今の気候変動への意識の高まり、気候変動リスクの増大を受けて、環境を軸として経済主体の価値判断が行われるような経済社会への変革、つまり経済のグリーン化が世界でこれまで以上に進んでいくと考えられる。具体的には、主に各国政府が主体として行っていく国際交渉を通じた気候変動に対する枠組みの構築や、その枠組みのもとでの投資家や企業の環境情報開示、環境金融、環境経営の在り方について、各国政府や中央銀行、国際機関も関与しながら議論されてきている。以下、それぞれの対応について見ていきたい。(1)国際交渉(パリ協定とSDGs)特に世界全体としての気候変動対応にとって重要な契機となったものとして、パリ協定があげられる。パリ協定とは、2015年にパリで開催された、温室効果ガス削減に関する取り決めを議論する「国連気候変動枠組条約締結国会議(COP)」で採択されたもので、2020年以降の気候変動対応に関する、発展途上国も含めた国際的な枠組みである。世界共通の長期目標として以下を掲げている。・世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力をする・そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとるこのようにパリ協定の特徴とも言える明確な長期目標を国際条約に明記したことにより、各国政府も具体的な温室効果ガスの削減目標を提示し、目標達成に向50 ファイナンス 2020 Apr.連載海外経済の 潮流

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