ファイナンス 2020年4月号 No.653
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スタートアップ企業が生まれない原因・日本経済にとって、スタートアップ企業を輩出することは重要であるが、アンケート調査によれば、起業には関心がない層が64.3%存在することがわかっている(図表6)。・起業したい人においても、(1)自己資金が不足している、(2)失敗したときのリスクが大きい、(3)ビジネスのアイデアが思いつかない、といったことを起業しない理由の上位に挙げている(図表7)。・また、日本では起業に対する評価が低く、周りの賛同が得られにくかったり、また失敗した場合に、大きなペナルティが課されたりすることも少なくない(図表8)。・さらに、スタートアップ企業の成長にとって、大企業との協業は重要だが、大企業におけるオープン・イノベーションのパートナーの属性をみると、起業家・スタートアップ企業の割合が欧米と比較して非常に小さい(図表9)。日本では、大企業が従来の取引慣行を重視する傾向が強いことが足かせになっている可能性がある。図表6 起業への関心64.3(%、2017)起業の経験あり現在起業に関心がある過去起業に関心があった起業には関心がない図表7 起業しない理由財務・税務・法務など事業の運営に関する知識・ノウハウが不足している(%、複数回答、2018)自己資金が不足している失敗したときのリスクが大きいビジネスのアイデアが思いつかない十分な収入が得られそうにない6040200図表8 起業に対する評価と教育起業家の社会的地位に対する評価日本起業を選択することに対する評価米国米国9位日本39位教育水準(54カ国中)日本米国806040200(pt、2017)(注)起業を選択することに対する評価は「Entrepreneurship as a good career choice」、起業家の社会的地位に対する評価は「High status to successful entrepreneurs」と答えた人の割合。図表9 パートナーの属性社内・他部門の社員大学・公的研究機関起業家・スタートアップ企業競合企業サプライヤー顧客2.521.510.50日本欧米(注)横軸は、イノベーションのプロジェクト以外の外部人材・組織との知識・ノウハウのやり取りに費やしたすべての時間に占めるそれぞれの時間割合のカテゴリー値(0=0%、1=0超~25%未満、2=25~50%未満、3=50~75%未満、4=75%以上)の平均。スタートアップ企業を増やすために・どのようにすれば日本でもスタートアップ企業の活性化が進むだろうか。まず、起業に対する無関心や低評価を是正し、新規事業のアイデア出しを支援していくことは有効と考えられる。アメリカでは、政府が「スタートアップ・アメリカ・イニシアティブ」を発表し、学生や広く国民から新しい知識や技術の集積に努めており、日本においても参考にすることができるだろう。(図表10)。・また、大企業が従来の取引慣行にとらわれず、スタートアップ企業を支援していくことは、重要なステップと考えられる。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)は、こうした取組みの一つであり、投資額と件数は近年増加傾向にある(図表11)。しかし、2018年において、世界全体のCVC投資額の約0.4%に留まっており、他の先進国と比べて割合はまだ小さい。加えて、有能な経営者の確保も重要な課題であり、人材の流動性が高まることによって、経営人材が確保されることが必要と考えられる。・このような取組によって、将来、日本経済を牽引しうるスタートアップ企業が生まれることを期待したい。図表10 知識や技術を形にする取組スタートアップ・アメリカ・イニシアチブテーマ内容資金アクセスの向上▲貧困エリアや省エネルギーを対象としたビジネスへの投資▲高成長のアーリーステージ企業に対する投資▲クラウドファンディングが可能に起業家とメンターとの連携強化▲グリーンエネルギー分野の起業家とメンターを結びつけるための仕組みを構築し、異分野にも展開▲大学生を対象にビジネスコンテストを実施▲学校教育への起業家教育の組み込み・スタートアップチャレンジの開催規制緩和▲ファストトラックの導入研究室から市場へ▲大学の研究者に対する起業家教育とイノベーションネットワークの構築▲地域レベルのイノベーションの加速化▲16省庁が共同で地域のイノベーションクラスターの支援を行う市場機会の誘発▲イノベーション加速のための政策アイディアを国民から募集図表11 CVC投資額と件数(注1)CVCとは、コーポレートベンチャーキャピタルの略称。(注2)CVC除く総額には、事業会社、VC、金融機関、海外、個人、その他からの   投資が含まれる。(億円)(件)201820172016201520142013201220112010200906,0004,0002,00020100CVC投資額CVC設立件数(右軸)CVC除く総額(出典)あずさ監査法人、Bloomberg、entrepedia、東京商工リサーチ「全国新設法人動向」、GEM「GLOBAL REPORT」、IMF「World Economic Outlook Databases」、BCG「Most Innovative Companies」、日本政策金融公庫「起業と起業意識に関する調査」、米山、渡部、山内、真鍋、岩田「日米欧企業におけるオープン・イノベーション活動の比較研究」、スタートアップ・アメリカホームページ、PwC Japanグループ「CVC実態調査」 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2020 Apr.49コラム 経済トレンド 70連載経済 トレンド

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