ファイナンス 2020年4月号 No.653
52/86

コラム 経済トレンド70前大臣官房総合政策課 調査員 杉山 渉/葭中 孝スタートアップ企業の活性化本稿では、国内における起業の状況と、その中でもスタートアップ企業が経済活性化に向けて果たすべき役割と、今後必要とされる取組みを示した。経営環境と起業動向・リーマンショック後に低迷した株価は、2012年以降右肩上がりの傾向にある。景気回復に伴う経営環境の改善を背景に、新規上場数も増加傾向にある(図表1)。・また、新規上場企業の中でも注目すべきは、イノベーションや新たなビジネスモデルの構築を志し、短期間での急成長を目指す「スタートアップ企業」である。日本において、スタートアップ企業数は、足もとで増加傾向にあるが、開業数が約13万社であることに対し、約1,800社と限られる(図表2)。・起業活動の動向をみると、一般的に、一人当たりGDPが大きく、所得水準が高くなるほど起業活動率は低下する傾向が日本や他の先進国ではみられるが、北米はそのような傾向とは一線を画している(図表3)。図表1 新規上場と株価2018201720162015201420132012201120100120030,0008020,0004010,000171717171717171717(社)(円)新規上場会社数日経平均株価(右軸)図表2 開業数とスタートアップ数(注)スタートアップ数は、新規の資金調達を行ったスタートアップ企業数の調査。20182017201620152014201320122011201020090150051204903602301(千社)(千社)開業数スタートアップ数(右軸)図表3 GDPと起業活動率アメリカカナダイギリス日本中国インドネシア(一人当たりGDP、USD、2018)北米抜きのトレンド(注)国はG20の中から、2018年の値を公表している16カ国を抽出。02016128480,00060,00040,00020,0000(起業活動率、%、2018)スタートアップ企業とイノベーションの関連性・経済成長のためにはイノベーションを生み出すことが重要な課題であるが、現代の世界のイノベーションの担い手である最も革新的な企業上位10社のうち、5社が創業約20年程度であり、起業からまだ日が浅い。イノベーションを担うと目される企業の時価総額は、急速に増加してきた(図表4)。・創業年数と企業の稼ぐ力を測るROA(総資産利益率)の関係をみると、創業年数が若い企業に比べ、創業年数が長い企業の方が、ROAが低い傾向が窺える。イノベーティブな若い企業は、事業の新規性からROAを伸ばしやすいが、年数を経て一定程度まで業容が拡大すると、既存事業から安定的なリターンを得るために、そこに経営資源を投下するようになる。また株主の要望や従業員雇用の安定化なども相まって、新しい事業への積極性が低下し、ROAが伸び悩む傾向があるように見受けられる(図表5)。・これらを回避し、イノベーションを生み出していくためには、スタートアップ企業を輩出していくことが望ましい。図表4 創業年数とイノベーション01201008060402001,8001,5001,200900600300Toyota(参考)AdidasTeslaFacebookIBMNetixSamsungMicrosoftAppleAmazonGoogle(年)(億ドル)創立からの経過年時価総額(右軸)(注1)設立からの経過年と時価総額は、調査時点の最新公表値を使用。(注2)横軸はThe Most Innovative Companies 2019が公表してる順位と対応しており、Googleが1位で、右に1つずれると順位も1つ下がる。参考のToyotaは37位。図表5 創業年数とROAの関係(創業からの経過年数)7014710131619222528313437404346495255586164670.010.08.06.04.02.0(%)(注1)東京1部の上場企業を抽出。(注2)Bloombergより、調査時点で最新の値を用いて筆者作成。48 ファイナンス 2020 Apr.連載経済 トレンド

元のページ  ../index.html#52

このブックを見る