ファイナンス 2020年4月号 No.653
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評者渡部 晶松岡 真広 著時間資本主義の時代日本経済新聞出版社 2019年12月 定価 本体1,600円+税本書の帯には、「すきま時間を買う人・売る人、ダイナミック・プライシング、サブスクリプション――。ほんのわずかな時間の使い方で、人生の満足度に大きな差がつく。それが時間資本主義の時代」とある。著者は、東京大学経済学部卒業後、野村総合研究所やUBS証券などで流通・消費部門の証券アナリストとして活動、2003年に産業再生機構に入社し、カネボウやダイエーの取締役として再生計画実行に携わった。2007年にフロンティア・マネジメント株式会社を設立、共同代表に就任。同社は、2018年に東証マザーズに上場した。共著「宅配がなくなる日」については、本誌2017年9月号のライブラリーで紹介した。本書の構成は、第1章 なぜ、時間の価値が変わってきたのか―時空のアンバンドリング化現象、第2章 時間価値の経済学、第3章 時給よりも時間価値の最大化を目指せ―時空のリ・バンドリング競争始まる、第4章 時間価値ビジネスの三要素―選択・移動・好感、第5章 時間価値の高い人、低い人―公私混同は時間価値を高めるカギ、第6章 時間価値の高い人が集まる街に仕事も集まる―逆ドーナツ化する街の風景、第7章 思い出の総和が深遠な社会へ、となっている。第1章で、工業経済において、時間は無個性な単位だった、と指摘し、携帯情報端末の普及で、オフィスという空間や、「すきま時間」の活用が可能となり、空間や時間からの制約を乗り越えるようになったという。第2章では、「時間資本主義」を「時間価値」(その時間によって生み出される価値)と「空間価値」(消費するサービスを享受する、その当該空間)を常に意識して、消費者・企業が合理的な行動を模索する枠組みだとする。ここでは探索のコストが意識され、そのコストが軽減できれば、それに見合う価格付けがなされるとする。そのため、ダイナミック・プライシングの発想は、時間資本主義ではより広く適用されるとみる。第3章では、高度な情報通信技術で得ることができるようになった「時間の効率化」は、最終的には「時間の快適化」を伴った「創造時間価値」の獲得へ向かうとみる。第4章は、「時間価値」により選択や物理的な移動がなされることや、交感(互いに感じ合う)ことが重視され、共時型・シェア型コンテンツの価値が飛躍的にあがっていくことなどを考察する。第5章では、時間資本主義時代の勝ち組、負け組の職業人のマトリクスを示し、「クリエイティブ・クラス―お金はあるけど時間がない!」、「伝統的エリート―お金はあるけど時間がない!」、「終りなき日常を生き続ける人―お金はないけど時間はたっぷり!」、「まじめ貧乏―お金も時間もない!」という分類を示す。第6章は、知識経済における「交流と共有」の重要性を指摘し、東京がさらなるクリエイティブシティとしての可能性を追求すべき所以を示す。第7章では、「エジプト型」(まじめ)と「ローマ型」(いまを楽しめ、不まじめ)の2つの死生観を提示し、後者を勧める。そして、公私混同(ワークライフブレンド)が今後の生き方ではないかとする。各章の考察では、著者がその業務を通じて獲得した豊富な実例が紹介され、その考察に厚みを持たせている。1960年代に、知識社会(知識経済)の到来を最も早く予測した1人は、ドラッカーだった。彼は、知識社会が、(1)より流動的、(2)より競争的、(3)高度に専門分化的、(4)知識ワーカーは組織と関わりながら働くことが求められる、と洞察した(参照:田中弥生著「ドラッカー 2020年の日本人への『預言』」、拙稿:本誌2013年12月号ライブラリー)。「時間資本主義」の時代とは、まさに、ドラッカーが見通した「知識社会」のありようが、今の時点でどう具現化されているかを、著者の鋭い眼でとらえたものといえる。「知識社会」のもとで具体的なものごとへの見通しをつけるのに格好の1冊だと感じた。 ファイナンス 2020 Apr.45ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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