ファイナンス 2020年4月号 No.653
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であるとします。この値の解釈の一つは、金利の動きには大小がある中で、過去1年の経験則でいえば68%のデータについて(1営業日で)-0.1%から+0.1%のレンジで動いていたというものです。注意すべき点は、ここでは、金利変化が正規分布に従っていることを想定して解釈している点です。図1にそのイメージが記載されていますが、金利変化が正規分布に従っていると想定することで1σ区間(ここでいえば-0.1%から+0.1%)に過去の動きの68%が収まっていると解釈することができます。正規分布の仮定が強すぎると思われる読者もいるかもしれませんが*4、ひとまずここで計算されたリスク量である0.1%が金利変化のレンジを示しているというイメージを持つことが大切です。前述のケースでは1σを用いましたが、これより大きな値を用いれば過去の経験でカバーされる割合が上昇します。例えば、2σ(=2×0.1%)に相当する-0.2%から+0.2%のレンジであれば過去の金利変化の95%がカバーされます(これも正規分布から得られる性質です)。逆に考えれば、1営業日で金利が±0.2%以上変化する確率は5%以下になりますから、金利リスク量として1σから2σの値を用いることでリスク量について保守的な値を用いることができます。金融機関の実務の言葉を借りれば、これは95%のレンジ(信頼区間)でみたリスク量(Value at Risk, VaR)になります(この事例だと、0.2%が95%の信頼区間でみたVaRです)*5。ちなみに、これらは過去のデータから算出したボラティリティであるため、ヒストリカル・ボラティリティ(Historical Volatility, HV)と呼ぶこともあります。注意すべき点は、ここで計算している値は10年国債の「金利変化」のボラティリティであり、「価格変化」ではない点です。金利変化のボラティリティを*4) 本稿ではσが意味することを直感的に理解するために正規分布を前提に解釈します。もちろん、正規分布に従わない分布を考えることもできます。金利変化の動きが正規分布からずれる可能性については次回の論文で議論することを予定しています。*5) 金融機関の実務では信頼区間が99%のVaRを計算するなど、より保守的なリスク量が用いられています。*6) プライス・ボラティリティは本稿で定義する金利ボラティリティにデュレーションを掛け合わせることで計算することができます。なお、筆者の実感では、円金利については本稿が定義する金利ボラティリティが用いられることがほとんどですが、ファイナンスのテキストを読む際は金利ボラティリティの定義に気を付ける必要があります。例えば、タックマン(2012)では本稿が金利ボラティリティと記載しているものを「ベーシス・ポイント・ボラティリティ」と記載する一方、同書では「金利ボラティリティ」を金利変化「率」のボラティリティと定義しています。*7) ここでは簡易的に説明しましたが、正確な金利感応度は(修正)デュレーションで算出されます。デュレーションとは1単位の金利変化が起こった場合、債券の価格が何パーセント変化するかを指し、D≡-1P∆P∆yで定義されます(Dはデュレーション、Pは債券価格、yは利回り)。固定利付債の場合、年限がおおむねデュレーションと近い値をとる特性があることから、本稿では年限を使った例を用いています。詳細はタックマン(2012)の5章などを参照してください。*8) 国債の価格データを用いた場合、価格の変化率を算出し、標準偏差を計算すればプライス・ボラティリティを計算できます。また、国債先物の価格データでも同様にプライス・ボラティリティを算出できますが、この場合は中心限月をつなぐ必要があります(中心限月については服部(2020a)を参照してください)。「金利ボラティリティ(イールド・ボラティリティ)*6」といいますが、実際の国債価格は金利の変化に対して、おおよそ債券の年限に比例して変動します。これは国債に投資した場合、その年限が長くなるほど、キャッシュフローを固定する期間が長くなることで金利が変化することによる影響が大きくなるためです*7。例えば、10年国債の場合、金利がたとえ0.1%しか変化していなかったとしても、価格はおおよそ1%(=0.1%×10)変化します。このような価格の変化に基づくボラティリティを「価格ボラティリティ(プライス・ボラティリティ)」といい、投資家が実際に認識する損益は価格の変化に相当します*8。国債の場合、金利変化のほうが直感的であることから、チャートなどで金利リスク量をみる場合、金利ボラティリティを用いることが多い印象です。このほかにも注意すべき様々な論点があります。例えば、ここでは過去1年のデータを用いましたが、異なる期間のデータを用いることもできます。金融機関のリスク管理ではおおよそ過去1~5年間のデータを用いていますが、トレーディングの現場ではより短い期間のデータでリスク量を算出する傾向があります。また、ここでは1営業日の金利変化に基づきリスク量図1 正規分布と1σのイメージ-1σ~1σ(本文の事例では-0.1%~0.1%)のレンジに過去のデータの68%がカバーされるイメージ平均確率(密度)金利の変化-1σ1σ本文の事例だとそれぞれ-0.1%と0.1%に相当 ファイナンス 2020 Apr.39国債先物オプション入門SPOT

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