ファイナンス 2020年3月号 Vol.55 No.12
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3.2 結果(2)(回帰分析)(1)推計モデル3.1で確認した、「企業規模-賃金」、「企業規模-労働生産性」及び「労働生産性-賃金」の関係性に関する製造業とサービス業間の差異について、有意な差があるかどうか以下の推計式により確認する。ln(Wi)=cons+∑j[βjDsize,ij+γj(Dsize,ij×Dserv,j)]+εiln(LPi)=cons+∑j[βjDsize,ij+γj(Dsize,ij×Dserv,j)]+εiln(Wi)=cons+∑k[βkDprod,ik+γk(Dprod,ik×Dserv,k)]+εiただし、従属変数としては、企業ごとの賃金Wまたは労働生産性LPの自然対数であり、Dsizeは規模区分ダミー(j=10~19人、20~49人、50~249人、250人以上)*14、Dprodは生産性区分ダミー(k=p10- p40、p40-p60、p60-p90、p90-p100)、Dservはサービス業ダミー(製造業なら0、サービス業なら1となる)である。従って、βは製造業におけるそれぞれのプレミアムを捉えることができ、γはサービス業に由来する追加的なプレミアムを捉えることができる。(2)企業規模別の賃金と労働生産性の関係企業規模別の賃金と労働生産性を確認したものが表4である。分析に当たっては、表3の記述統計量でも確認したように、極端な外れ値を処理するため、分布の両端0.05%を棄却した上で分析を行った。まず、表4の2列目で賃金についてみると、製造業は、企業規模が大きくなるにつれ賃金が高くなっている。一方、サービス業は、小規模から中小規模までの企業では製造業より賃金が高くなっているが、その差は企業規模の増加に伴い減少し、大規模企業の場合では製造業と比べると賃金が低くなっている。次に、表4の3列目で労働生産性についてみると、製造業は、企業規模が大きくなるほど労働生産性が高くなっている。一方、サービス業は、小規模から中堅規模までの企業では製造業より労働生産性が高くなっているが、その差は企業規模の増加に伴い減少し、大規模企業の場合では製造業と比べると労働生産性が低*14) 規模区分については、1~4人と5~9人の規模を合算して基準とし、50~99人と100~249人、250~499人と500人以上の区分を同傾向とみなして合算し、改めて5つに区分した。くなっている。企業規模と労働生産性と賃金の関係をみると、製造業はいずれもが正の相関関係にあることが確認できた。これはBerlingieri et al.(2018)を始め、これまでの先行研究の結果と整合的である。一方、サービス業は、小規模企業では賃金、労働生産性とも製造業を上回っているものの、規模が大きくなるにつれその差は減少し、大規模企業では製造業を下回っているというように、製造業に比べると企業規模にわたり生産性及び賃金がよりフラットになっている。(3)労働生産性と賃金の関係労働生産性と賃金との関係を分析すると(表5)、製造業もサービス業も、労働生産性が高い企業ほど賃金が高い傾向があるという正の相関があることが確認できた。この結果は、Berlingieri et al.(2018)の結果と整合的である。また、製造業とサービス業を比べると、製造業の方が労働生産性に対する賃金の水準がやや高くなっている。4.まとめ本稿は、Berlingieri et al.(2018)を参考に、法人企業統計の個票を用いて、日本企業の企業規模と労働生産性、賃金との関係について、企業を製造業、サービス業に分けて分析を行った。その結果、(1)製造業は、企業規模が大きいほど賃金、労働生産性とも高いこと、(2)サービス業の大規模企業(250人以上)は、製造業ほど企業規模と賃金、労働生産性の関係が強くはないこと、(3)製造業、サービス業とも、労働生産性と賃金は正の相関があること、が分かった。サービス業が製造業ほど正の関係性が見られなかった理由として、(1)サービス業内の業種のばらつきが結果に反映されている可能性があること、(2)法人企業統計の従業員数の集計の関係から、分析対象となっているサービス業で臨時職員やパート職員が多い場合、企業規模は大きいが、少なくとも賃金(従業員給与と従業員賞与)は低くなっている可能性が考えら68 ファイナンス 2020 Mar.連載日本経済を 考える

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