ファイナンス 2020年3月号 Vol.55 No.12
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(3)賃金は生産性(労働生産性、全要素生産性)ともに増えており、製造業、サービス業とも当てはまること、を明らかにした。その上で、製造業以外の産業においては、「企業規模-賃金プレミアム」よりも「生産性-賃金プレミアム」の存在を示唆している。このBerlingieri et al.(2018)が分析で用いたMultiProdに含まれる日本のデータ元は、1999年から2014年までの『企業活動基本調査』と『工業統計調査』となっている*1。ただし、『企業活動基本調査』は、従業者50人以上かつ資本金又は出資金3,000万円以上の会社を全数調査したものであり、『工業統計調査』は製造業で4人以上の事業所が対象となっているため、(1)50人未満の企業が対象となっていない、(2)サービス業が十分カバーされない、という課題がある。そこで本稿は、全ての産業区分をカバーして従業員数も把握することができる『法人企業統計』に着目し、現時点で入手できる最新の法人企業統計の個票を用いて、Berlingieri et al.(2018)の分析を参考に、日本における企業規模が労働生産性、賃金にどのように関係しているのかを検証する。本稿の構成は以下の通りである。第2章は本稿で用いる分析手法の説明、第3章は分析結果の説明、第4章はまとめである。2.本稿の分析手法2.1 データの説明データは、『法人企業統計』の年報の個票を用いた*2。本稿では、最新の状況を把握するため、2018年度のデータを用いた。法人企業統計は、日本における営利法人等の企業活動の実態を明らかにすることを目的に財務省が実施している基幹統計である。法人企業統計は、資本金5億*1) Desnoyers-James et al.(2019).*2) なお、企業活動を分析することができる統計調査として、『経済センサス』があるが、現時点で2019年度の調査中のため、現時点で使えるデータは「基礎調査」で2014年、「活動調査」で2016年になることから、本稿では法人企業統計を用いることとした。また、『企業活動基本調査』もあるが、事業所母集団データベースを利用していないため、企業にバイアスがかかっている可能性が排除できない。『中小企業実態基本調査』は、中小企業の活動の実態を知る上では有益な情報、具体的に商品の仕入先・販売先、海外展開の状況、事業承継等の情報を収集している統計であるが、標本抽出に対する回答率が40%台と低いという課題がある。*3) 2018年度の法人企業統計の回収率は全体で76.2%であり、その内訳は資本金別に10億円以上:92.8%、1億円以上10億円未満:77.2%、1,000万円以上1億円未満:74.5%、1,000万円未満:59.4%となっている。*4) 『平成30年度 法人企業統計調査 記入要領』(金融業、保険業以外の法人用)(p.16)。円以上の企業は全数抽出、資本金5億円未満の企業は等確率系統抽出により調査を実施しているため、中小企業から大企業まですべての規模区分で一定数の企業を包含している*3。さらに、法人企業統計は標本調査であり、日本の法人(母集団)から標本(調査対象となる法人)を抽出し、その標本の調査結果を基に母集団全体の計数を推計する。標本の抽出は、業種別・資本金別に階層を分けた上で行っている。本稿では、こうした利点を兼ね備える法人企業統計のデータを用いた。2.2 法人企業統計の項目の説明法人企業統計で利用した項目は以下のとおりである。(1)企業法人企業統計の企業は、企業レベルを捉えており、企業単体の数字が計上されている。つまり、事業所を捉えているものではなく、連結の数字ではない。(2)従業員数従業員数は、法人企業統計の「期中平均従業員数」を用いている。これは、「従業員給与」の支給があった従業員数であり、法人企業統計の「従業員」は、役員以外のもので、契約社員、臨時職員及びパートの職員を含んでいる。ただし、派遣会社から受け入れている派遣社員、給与等を直接支給しない出向者及び無給の人員は含んでいない。法人企業統計では、臨時職員及びパートの職員の人員の算出に当たって、総従事時間数を常用従業員の平均就業時間で割り、四捨五入した整数の人数を用いている*4。(3)従業員数別の企業規模の区分企業規模は、法人企業統計にある「期中平均従業員 ファイナンス 2020 Mar.63シリーズ 日本経済を考える 98連載日本経済を 考える

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