ファイナンス 2020年3月号 Vol.55 No.12
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html企業規模と賃金、労働生産性の 関係に関する分析*シリーズ日本経済を考える981.はじめに人口が減少していくなかで、日本経済を支えていくためには、生産性の向上が欠かせない。生産性を高めるためには、どのような施策が必要か。さらに、賃金が高まるためには、どのような施策が必要か。近年、企業規模と賃金、生産性の関係が日本でも注目されている。まず、企業規模と賃金に関する先行研究を確認すると、古くはMoore(1911)まで遡る。その後、企業規模と賃金について分析した研究が続き、Brown and Medo(1989)は、大規模企業は小規模企業よりも従業員への支払いが高いことについて、アメリカの賃金統計を用いて分析し、決定的な答えではないとしながらも、事業所でも企業でも規模が賃金に影響することや労働組合の状況とは別に大規模企業の方が高い賃金を得ているとの結果を得ている。Troske(1999)は、アメリカの製造業の事業所データを用いて雇用主と雇用者を関係づけ企業規模と賃金の関係を分析したところ、企業規模-賃金プレミアムが確認され、大規模企業は高スキルの従業員を雇い、人的資本への投資を行っていることが考えられると述べている。Barth et al.(2018)は、アメリカの製造業の事業所データを用いて、収益に貢献する雇用主の特質を探ったところ、従業員数をはじめ、従業員の教育、従業員一人当たりの資本装備、産業、R&Dの集中度があることを明らかにしている。Bloom et al.(2018)は、アメリカの社会保障局が管理している所得データを用いて、企業規模と雇用者の所得の分布を時系列で分析した結果、1980年代以降、大規模企業と小規模企業との賃金格差がどの産業でも縮小してきたことを明らかにしている。続いて、企業の規模に関してLucas(1978)は、企業規模を大きくすることに否定的である政策は適切ではないことを分析している。Syverson(2011)は、企業の生産性に関するサーベイを幅広く行うなかで、企業の規模が生産性に与える影響を理論的に整理しており、生産性が高い企業は規模が大きいと述べている。Melitz(2003)は、輸出企業は非輸出企業に比べ生産性が高い企業であり、長期的には生産性が高い企業に資源が配分されるプロセスを明らかにしている。より直接的に、企業規模と労働生産性、賃金の関係について分析した研究としてBerlingieri et al.(2018)がある。Berlingieri et al.(2018)は、製造業だけでなく、サービス業について、日本を含めた主要17か国を対象に、OECDが各国から収集した企業データベースMultiProdを用いて、企業規模と労働生産性、賃金との関係を確認している。その結果、(1)先行研究で確認されているとおり、製造業は企業規模に応じて賃金及び労働生産性が上昇していること、(2)サービス業は製造業に比べると、企業規模にわたり労働生産性及び賃金がよりフラットになっていること、財務総合政策研究所 総括主任研究官奥 愛財務総合政策研究所研究員井上 俊財務総合政策研究所 財政経済計量分析室員升井 翼* 本稿の執筆にあたり、財務総合政策研究所で開催した研究報告会にて、学習院大学准教授・滝澤美帆先生にコメンテーターをお願いし貴重なご意見を賜った。また、同報告会の参加者、財務総合政策研究所・八木橋毅司主任研究官、木村遥介研究官、山田昂弘前研究官から多くのアドバイスを頂いた。記して感謝申し上げたい。ありうべき誤りは全て筆者らに帰する。なお、本稿内容は筆者らの個人的見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではない。また、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではない。62 ファイナンス 2020 Mar.連載日本経済を 考える

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