ファイナンス 2020年3月号 Vol.55 No.12
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企業等への影響・低金利環境における日本のDBのリスクは、「資産運用リスク」と「割引率低下リスク」の主に2つが考えられる。近年については、割引率低下により退職給付債務が拡大してきた一方で、円安基調や国内外の運用環境が好調だったこと等もあり、企業財務に与えた影響は限定的となっている(図表7、8)。・また、企業側も、DBで生じ得る企業側の予期せざる負担増の抑制等のために、DBとDC両制度の導入等、リスク回避に動いている(図表9)。図表7 退職給付債務と積立比率※2013年度から2018年度まで継続して数値が取得できる DBを導入する金融を除く上場企業1130社の合算値060402020131415161718(兆円)10067330(%)(年度)退職給付債務年金資産退職給付に係る年金資産図表8 年金資産の時価等(調整額)に よる寄与度(2012年3月~2019年3月)※2012年3月末の確定給付型年金の資産合計比債務証券株式等・投資信託受益証券対外証券投資その他▲520151050(%)図表9 企業年金の資産残高の推移012010080604020201113121415161718(兆円)(年度)厚生年金基金確定拠出年金(企業型)確定給付企業年金今後のリスク要因・上記の通り、新規でのDC等への移行が進められているが、他方でDBの過去分も含めたDCへの移行は大きくは進んでいない。そのため、低金利環境継続による今後生じ得るリスクにも配慮する必要がある。・年金制度の実務においては、制度状態を判断する目安の一つとして「成熟度」がよく用いられる。成熟度が100%を下回る状況では、掛金収入で給付を賄うことができるため流動性に配慮する必要性が低いが、成熟度が100%を超えると、掛金を上回る給付を賄うためのキャッシュアウトが必要となるため、保有資産への流動性の配慮が必要となる(図表10)。・DBの成熟度を測る金額ベースの指標からみると、足下では、給付支払額が掛金収入額を上回るDBが増加傾向を辿っている(図表11)。年金資産においては、価格変動リスクや流動性リスクの高い資産へのシフトが進められているが、成熟度100%超のDBでは、運用収益の一部を給付に充てる必要から、予期せざる売却損等のリスクがある。今後、改めてDBが抱えるリスクに焦点が当てられることで、DC加入推進やリスク分担型企業年金等への移行等、DBからの移行を検討する企業の増加が予想される。図表10 年金制度の成熟化の推移(給付÷掛金収入)(給付)運用収益掛金収入成熟度100%(経過年数)③総収入=給付②総収入>給付①掛金収入>給付(金額)図表11 DBの成熟度の推移※成熟度は、連結財務諸表で開示される「年金資産の期首残高と期末残高の調整表」における「退職給付の支払額」/「事業主からの拠出額」で計算※2013年度から2018年度まで継続して数値が取得できるDBを導入する金融を除く上場企業857社を対象(年度)010060160801406012040100208020131415161718成熟度100%以下のDB成熟度100%超のDB成熟度の合算平均(右軸)(%)(%)(出典)厚生労働省「就労条件総合調査」、日本銀行「資金循環統計」、Bloomberg、日経NEEDS、信託協会ほか「企業年金の受託概況」、運営管理機関連絡協議会「確定拠出年金統計資料」 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2020 Mar.61コラム 経済トレンド 69連載経済 トレンド

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