ファイナンス 2020年3月号 Vol.55 No.12
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南スーダン:為替レート(米ドル/南スーダン・ポンド)035030025020015010050パラレルマーケットレートオフィシャルレート2015年12月2016年12月2017年12月2018年12月(出典:2019年 対南スーダンIMF4条協議報告書)4.4 債務対外公的債務残高は約12億ドル (対GDP比34パーセント)となっています。主に世界銀行、アフリカ開発銀行、中国輸出入銀行、カタール国立銀行からの借り入れとなっていますが、近年は国際金融市場へのアクセスが大幅に途絶え、高利で不透明な石油担保借り入れへの依存が高まっています。債務持続性分析(DSA、Debt Sustainability Analysis)によれば、対外債務額GDP比と対外債務返済額歳入比がそれぞれ閾値を上回るうえ、対外債務未払いも存在するため、債務持続性のリスク格付け*5は4段階中最も評価の低いIn debt distressとなりました。5.南スーダンの今後の課題と政策提言ここでは、2019年対南スーダンIMF4条協議報告書の内容に沿った課題とその対処策の一部を紹介したいと思います。総論としては、平和秩序の再構築により、マクロ経済の安定性を取り戻すことが急務となります。そして、度重なる内戦によって毀損された財政・金融当局のキャパシティーの修復が求められます。南スーダンの財政・金融当局のスタッフの中にも、難民やIDPとして家を追われ離職した方も多く、慢性的な人手不足に加え各種統計やデータの欠損は財政・金融政策の立案に大きな影響を及ぼしています。5.1 産業石油偏重の産業構造の多様化が課題として挙げられます。南スーダンには、農業、漁業、鉱業といった非*5) 低リスク、中リスク、高リスク、In debt distressの4段階。石油産業にも潜在的な成長の可能性があります。治安の悪化に伴い農業活動は大きく阻害されてきましたが、国土の70パーセント以上が農業に適した肥沃な土地であり、国民の95パーセントが農業従事者であるため、農業セクターの潜在的な成長性は非常に大きいと考えられます。また、域内を流れるナイル川沿いには世界最大規模の湿地帯(スッド湿地)が広がり、漁業資源にも恵まれています。そして、コンゴ民主共和国やスーダン、ウガンダといった鉱物資源国に囲まれているという地理的要因もあり、南スーダンには金やダイアモンド、銅や各種レアメタルといった鉱物資源が豊富に眠ると言われていますが、まだ小規模な採掘に留まっており大規模な採掘調査は行われていません。道路や水道、発電所といった基礎的インフラも決定的に不足しており、建設需要も非常に高いです。治安を取り戻した後は、政府や民間企業がこのような産業に進出し、石油産業に過度に依存しない包括的な成長(Inclusive growth)を実現することが求められます。5.2 財政まず第一に、石油関連収入の透明化を図る必要があります。具体的には、財政赤字の補填を目的とした不透明な石油担保借り入れを即時停止し、公正なスポット価格で取引された石油収入が政府の歳入として国庫に直接入ってくる仕組みを確立することが求められます。また同時に、短期かつ高利で不透明性ゆえ汚職の温床ともなっている石油担保借り入れに代わり、より長期で譲許的な条件での借り入れを模索することも慫慂されます。そして、非石油産業からの徴収も強化し、歳入基盤の多様化を図ることで、石油収入に依存する財政構造から脱却することが求められます。こういった取り組みで財政規律の引き締めと公共財政管理(PFM, Public Financial Management)の強化を図ったのち、中長期的には、軍事費をはじめとする安全保障分野から、教育や保健、インフラといった社会分野へ予算分配をシフトさせることが望まれます。 ファイナンス 2020 Mar.49海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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