ファイナンス 2020年3月号 Vol.55 No.12
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4.南スーダンのマクロ経済状況長引く武力衝突により原油産出をはじめとするあらゆる経済活動は滞っており、南スーダンのマクロ経済状況は危機的な状況にあります。しかしながら、2018年9月の衝突解決合意以降は、徐々に回復の兆しが見られるようになりました。4.1 産業2017/18年度*3の名目GDPは約35億ドルで、実質GDPは直近3年間で累計22パーセントの減少となっています。南スーダンはサハラ以南アフリカではナイジェリアとアンゴラに次ぐ3番目の石油埋蔵量を誇る産油国で、産業は石油に大きく依存しています。一方、南スーダンは国内に製油所がないため、パイプラインを通して原油をスーダン内の製油所に輸送しており、パイプラインの使用料として、1バレル当たり9.1ドルをスーダンに支払っています*4。輸出の9割以上は石油で、内戦や飢饉もあり、食料品をはじめとする大半の生活必需品をウガンダなど隣国からの輸入に頼っています。2016年7月の武力衝突以降、原油の産出量は激減していましたが、2018年9月の衝突解決合意以降は急速に産出量を増やしており、経済活動の回復の兆しが徐々に見られています。4.2 財政財政も石油に大きく依存しており、歳入の約9割が石油収入となっています。国営石油公社がインド、マレーシア、中国の民間企業とコンソーシアムを組んで原油の産出を行い、総産出量の約8パーセントが南スーダン政府の取り分として国庫に入ってきます。しかしながら、長引く武力紛争を背景に、軍事費の捻出のために大幅な財政赤字を繰り返し、財政赤字を補うために過去数年にわたり中央銀行からの借り入れ行うなど、財政規律は著しく緩みました。その結果、ハイパーインフレが起こり、2016年9月には前年同月比約550パーセントのインフレとなりました。IMFからの政策提言もあり中央銀行からの借り入れは停止され*3) 2017年7月~2018年6月 (南スーダンの財政年度は7月~6月)。*4) パイプライン使用料の他にも、独立に際しスーダンとの間で締結した移行財政措置(Transitional Financial Agreement)に基づき、石油輸出1バレル当たり15ドルをスーダンに支払っている。ましたが、この2年ほどの間は、将来産出される原油を担保とした借り入れ(Oil advances, Oil-backed loans)を大量に行っており、その取引の不透明性が問題となっています。南スーダン:インフレーション(対前年同月比%)-20060040020002010年12月2011年12月2012年12月2013年12月2014年12月2015年12月2016年12月2017年12月2018年12月総合インフレ率食品インフレ率(出典:2019年 対南スーダンIMF4条協議報告書)4.3 金融上述のように、政府の財政政策が金融政策を圧迫しており、中央銀行による金融政策は十分に機能していません。金融政策目標も不透明であり、中央銀行としての信頼性の欠如が大きな問題となっています。自国通貨として南スーダン・ポンドを発行していますが、外貨(ドル)との為替取引についてはオフィシャルレート(公式レート)の他にパラレルマーケットレート(闇市場レート)が存在し、パラレルマーケットのプレミアムは約100パーセントにも及びます。そして、外貨準備金も低水準で、輸入代金の1か月分にも満たない水準が慢性的に続いています。当局は外貨獲得のため、国連機関やNGO等が南スーダン国内に持ち込む外貨を特別口座(Special Account)に預金させ、その一部を市場の実勢よりも低く不利なレート(オフィシャルレート)で中央銀行が強制的に買い取る政策を実施しています。また、南スーダン内で営業を行う国内資本の銀行の多くは自己資本不足に陥っており、どの銀行も外貨両替業務のみを行い貸出等の通常の銀行業務は行っていないなど、民間の金融セクターも機能していません。48 ファイナンス 2020 Mar.連載海外 ウォッチャー

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