ファイナンス 2020年3月号 Vol.55 No.12
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渡銘柄の選択に関するオプション(クオリティ・オプション)がクリーンに推定できる点に注目しています。Lin et al.(1999)はスタンダードな金利モデ*12) 同論文ではハル・ホワイト・モデルを用いています。同モデルについてはハル(2016)などを参照してください。*13) ちなみに、オーストラリア国債先物など、現金決済の先物では、そもそも売り手がデリバリー・オプションを有していません(そもそも現金決済の先物にはチーペストという概念がありません)。*14) CVA以外のXVAの例としてFunding Value Adjustment(FVA)が挙げられます。例えば、読者がA社とデリバティブ契約を結ぶ一方で、そのヘッジとしてB社と同種の契約を結んだとします(A社とB社のデリバティブの価格は逆に動くと想定します)。その際、A社との契約にCSA契約がなく証拠金の授受がない一方、B社との契約にはCSA契約があるとしましょう。このケースでは、仮にB社との契約の時価がマイナスに動いた場合、読者はB社へ証拠金を払わなければなりません。一方、A社との契約の時価はプラスに動いていますが、A社とはCSA契約を結んでいないため、証拠金を受け取ることができません。この場合、B社へ支払う証拠金を読者は自ら調達してくる必要がありますから、読者はA社との契約では事前にこのコストを調整した価格を求めることが合理的です。この調整がFVAに相当しますが、これは自社の調達コストがデリバティブ価格に影響を与える事例になります。現在の標準的なデリバティブ契約では中央清算機関やCSAを通じて証拠金のやり取りをすることが多いため、証拠金の受渡がないケースではデリバティブの価格にFVAを調整する慣行が広がっています。なお、CSAの契約の内容によってはCSA契約を結んでいても一定の調整が求められるケースもあります。ル*12を用いて先物に含まれるクオリティ・オプションの価値を計算し、そのオプションの価値が非常に小さい点を指摘しています*13。BOX 先渡契約における証拠金の受渡とXVA日本国債の先渡契約については期間が短い等を背景に証拠金の受渡がなされないケースがありますが、近年、為替スワップなど多くの先渡契約において証拠金の受渡がなされるケースが増えてきています。その背景には、リーマン・ブラザーズが破綻して以降、取引相手がたとえ金融機関であってもデフォルトするリスクが認識されるようになったことがあります。例えば読者が金融機関と契約を結ぶ際、取引相手となる金融機関の信用力が高い場合は安心して取引できますが、仮に取引相手の信用リスクが低いケースでは、その分不利な契約だと考え、その分の調整を求めることが合理的です。現在、この調整をデリバティブの価格に反映させる慣行が普及しており、この調整は「信用評価調整(Credit Valuation Adjustment、CVA)」と呼ばれています。先渡契約は相対で取引するデリバティブ(店頭デリバティブ)であることから、取引相手に応じてCVAを調整する必要があり、その意味で、CVAは先物と先渡のベーシスに影響を与えます。重要な点は、証拠金の受渡とCVAは密接な関係を有する点です。取引相手と十分な証拠金の受渡をしている場合、仮に相手がデフォルトしたとしても、その証拠金を受け取ることができるため、デリバティブの価格にCVAを反映させる必要性は低いといえます。現在の店頭デリバティブでは大きく分けて、中央清算機関と呼ばれる第三者を通じて証拠金を受け渡す仕組みと、CSA(Credit Support Annex)と呼ばれる契約を通じて、取引相手と相対で証拠金を受け渡す仕組みがとられています。従来のファイナンスのテキストでは、証拠金の有無にフォーカスして先物と先渡の違いを説明することが少なくありませんが、近年、為替スワップなど多くの先渡契約で証拠金の受渡が求められていることに鑑みると、先物と先渡の本質的な違いを取引所取引と相対取引の違いと整理する方がよいというのが筆者の意見です(為替スワップなどの詳細については服部(2017)を参照してください)。なお、ここではCVAを取り上げましたが、取引相手の信用リスク以外の要因*14もデリバティブの価格に影響を与えることから、CVAなどを総称しXVAとよばれることがあります。XVAはそれだけで膨大な内容であるため、その詳細は富安(2014)や斎藤(2017)など関連文献に譲ります。3スクイーズ国債先物では、残存7~11年の国債の中から売り手が受け渡す銘柄を選択することができますが、その理由の一つは受け渡す銘柄を一つにすると、その銘柄を買い占めて利益を得ようとする投資家がいるからです。このように銘柄が買い占められる状況をスクイーズといいますが、例えばチーペストである7年国債を特定の投資家が買い占めた場合、先物と先渡の間の裁定が ファイナンス 2020 Mar.39日本国債先物入門SPOT

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