ファイナンス 2020年3月号 Vol.55 No.12
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り、年金給付の水準にも地域間で格差があることが確認できる。このような地域格差が発生している要因が、制度の運営・管理主体が地域に細かく分かれている点にあることは明らかであるが、その経緯の一部を説明する。1991年に実施された年金改革によって、都市部企業就労者の年金保険基金の運営・管理は地方政府(県・市レベル)が行うこととなった。地域間で、企業の従業員の年齢構成や業績に差があったため、地方政府(県・市レベル)ごとに年金財政の格差が初めから生じていた。このような状況に対して、年金保険基金の運営・管理主体を省・全国レベルに統一し、黒字地域から赤字地域への財政移転を通じた格差是正を可能とすることが目指されてきたが、黒字地域の地方政府の反対等もあり、省単位への統一もいまだに完全には実現していない状況である。ただし、2018年7月からは、基本年金基金の地域間格差是正を目的とした中央調整基金が設置され、各省から一定額を徴収し、高齢化率が高い地域に財源を多く移転する措置が執られはじめた*11。制度運営単位が統一されていないことに起因する課題には、制度の地域間格差に加え、地域間で制度移行を行う加入者に対する財源移転の不公平がある。例えば、転職等によってB市からA市に移転する場合、B市で支払った保険料拠出分について、積立方式の個人勘定(2階)部分は積立残高全額をA市で受け取る年*11) 新華網日本語版(2018)、労働政策研究・研修機構(2018)。*12) 片山ゆき(2017)金財源に移動できるが、賦課方式の基本年金基金(1階)部分は実際の拠出の一部分しか移動できないという制限がある*12。財務総研とDRCの共同研究における過去のコンファレンスでは、中国側が、これらの課題を重要視していることが確認でき、地域間の財政移転、国有企業株式売却益による財政補填、財政検証強化などの対策が必要といった意見があった。また、日本の統一的な年金制度や財政検証のあり方について学ぶことは非常に意義深いといった意見も挙げられた。(2)個人勘定の空口座問題都市職工基本養老保険の個人勘定(2階部分)については、本来あるべき残高よりも大幅に少ない額しか積み立てられていないという、いわゆる空口座問題が発生している。この問題の根本は、都市職工基本養老保険が現行制度と同様の仕組みになった1997年の年金改革にさかのぼる。従来は賦課方式が採用されていたため、退職者に支払われる年金が基金として蓄積されておらず、基本年金が財源不足の状況であった。しかし、発生した給付債務(既に退職している人(=老人)のための給付や、既に就職しており新制度のもとで積立不足に陥る人(=中人)のための措置)に必要な財源調達に関して、独立した施策が講じられなかった。このことが原因となり、一部地域において本来個人勘定に積み立てられるべき2階部分の積立金が、現図2 都市職工基本養老保険の地域別年金積立金残高・積立度合・所得代替率(2017年末)広東北京江蘇浙江四川山東上海山西安徽湖南河南新疆ウイグル自治区雲南重慶福建湖北河北江西貴州内モンゴル自治区遼寧広西陝西天津甘粛吉林寧夏回族自治区海南チベット青海黒竜江-2,00010,000-20.0100.08,00080.06,00060.04,00040.02,00020.000.0(億元)(%、ヵ月)(出所)中国国家統計局(2018)(※所得代替率=年金支給年額÷平均賃金×100(%)として算出)年金積立残高(億元)積立度合(ヵ月)所得代替率(%)34 ファイナンス 2020 Mar.SPOT

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