ファイナンス 2020年3月号 Vol.55 No.12
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を対象とする「都市職工基本養老保険」、都市の非就労者及び農村住民を対象とする「都市・農村住民基本養老保険」、公務員を対象とする「公務員養老保険」の三つの制度から成っている(表1)。このうち「都市職工基本養老保険」と「公務員養老保険」の二制度は概ね同様の仕組みとなっており、制度上は強制加入となっている(実際には「都市職工基本養老保険」において保険料納付率の低さが問題となっているが、詳細は後述する)。保険料は加入者の賃金に応じて事業主と個人が負担し*9、基金は1階部分の基本年金基金と2階部分の個人勘定から構成される2階建て構造となっている。1階部分の基本年金基金は制度運営の単位である地方政府において制度毎の社会プールとなっており(賦課方式)、不足分については財政補填が行われる。2階部分の個人勘定は年金給付のために個人に紐づいた口座に積み立てられ(積立方式)、事前に引き出すことはできない(実際には、個人勘定の残高が不足する「空口座問題」が発生しているが、詳細は後述する)。給付は支給開始年齢である男性60歳、女性55歳・50歳(職種による)に達し、加入期間が15年以上ある者に対して行われる。なお、二つの制度間の違いは先にも述べたが「公務員養老保険」の個人勘定に、企業と個人の拠出による「職業年金」が加算されている点である。「都市・農村住民基本養老保険」は、他二制度とは異なる仕組みとなっており、加入対象は16歳以上の都市の非就労者及び農村住民(学生を除く)、加入は任意となっている。保険料は複数の設定金額(地域によって異なるが、年額100~2000元)から選択して個人が支払う分に、地方政府からの補助金(年間30*9) 保険料率は地域によって異なるが、北京市の「都市職工基本養老保険」の場合は、事業主が賃金総額の16%、個人が賃金の8%として設定されている。*10) 積立度合=年金積立金残高÷年金給付額×12(ヵ月)。年金積立金残高が、向こう何ヵ月分の年金給付に値するかを示す指標。元以上)が加算される。基金は、保険料の積み立てによる個人勘定(積立方式)が2階部分に該当し、1階部分は中央・地方政府の拠出による基礎年金(税方式)から成る2階建て構造となっている。給付は支給開始年齢の60歳(男女とも)に達し、加入期間が15年以上ある者に対して行われる。なお、こちらの制度も運営単位は地方政府となっている。4中国の年金制度の課題中国の年金制度の課題については、前述の2018年以降の財務総研とDRCとの共同研究における計3回のコンファレンス及び視察においても、中国側が年金制度に対して課題意識を強く持っていることが確認できた。年金制度の課題としては、(1)基本年金基金及び年金給付水準の地域間格差、(2)個人勘定の空口座問題、(3)低い年金扶養率と国庫負担への大きな依存、(4)低い保険料納付率などが挙げられた。それぞれの課題について、概要、背景や改善に向けた対応等を、共同研究を通して得られた内容などを含めて簡単に紹介する。(1) 基本年金基金及び年金給付水準の地域間格差都市職工基本養老保険の基本年金基金(1階部分)については、現状中国全体では、収支は黒字となっているが、地域ごとにみた場合、赤字の地域が存在しているという問題がある。この背景には、前述の通り制度運営単位である地域(居住地や勤務地)によって年金制度が異なっていることがあり、収支状況に格差がある結果として地域ごとの年金積立金残高や積立度合*10にも大きな差が生じている(図2)。具体的には、広東省では、2017年末時点で基本年金積立金残高が9245.1億元、積立度合が58.5ヵ月と全地域内で最も基本年金基金が潤沢である一方、黒竜江省では、基本年金積立金残高が-486.2億元、積立度合が-3.8ヵ月と基本年金基金は既に枯渇している。また、同じく図2(右軸)に示している年金支給額を平均賃金で除して算出した所得代替率についても、最も高い雲南省と最も低い安徽省では2倍近くの差があ表1 現行の中国の公的年金制度の概要制度都市職工基本養老保険公務員養老保険都市・農村住民基本養老保険対象※都市の就労者公務員 等都市の非就労者、農村住民加入条件強制加入任意加入(16歳以上)保険料負担事業主、個人個人、地方政府補助基金1階基本年金基金(賦課方式)[保険料(事業主)・財政補填]基礎年金(税方式)[国庫負担]2階個人勘定(積立方式)[保険料(個人・補助金・職域加算)]給付条件男性:60歳、女性:55歳、50歳加入期間15年以上男性・女性:60歳加入期間15年以上運営単位地方政府(省・県・市)※各制度の加入対象の内訳については、図1の第1柱部分も参照されたい。 ファイナンス 2020 Mar.33中国国務院発展研究センターとの共同研究及び中国年金制度の抱える課題SPOT

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