の結果、二組の老人夫婦(祖父母)4人、それぞれの一人っ子同士の夫婦2人、夫婦の子供(孫)1人からなるいびつな世帯が主流となり、子や孫世代への負担が増加する社会構造へと変化していることを示している。中国は、元来は儒教的な思想の下、親の老後の面倒は子供が見るものという考え方が一般的であったが、こうした人口構造の変化に伴い、近年では社会保障による高齢者への福祉の重要性が強く認識されている。この様な中、中国政府は2020年までに年金、医療、介護の国民皆保険の実現を目標として掲げており、公的年金を含めて社会保障制度の更なる整備が進められている。(2)中国の年金制度の全体像現在の中国の公的年金を含む年金制度の全体像は、図1のような3本柱の構造となっている。第1の柱は「公的年金」であり、本稿ではこの後、この制度を主に取り上げる。第2の柱には企業が任意で従業員を加入させる「企業年金」と、公務員が強制的に加入する「職業年金」がある。「企業年金」は都市部就労者に対する公的年金である「都市職工基本養老保険」への保険料納付を前提に、企業と個人が追加で掛金を拠出し従業員個人に用意された口座で管理・運用されるが、加入率はまだまだ低い。公務員に対する「職業年金」は公的年金の「公務員養老保険」に紐づいて強制加入で上乗せされる制度であり、公的年金の一部として整理することも可能であるが、制度の構造上は「企業年金」と横並びに位置づけられるため図1では第2の柱に示している。第3の柱には民間の商業保険等を活用した個人年金が据えられており、こちらは個人が任意で加入するものである。第1の柱の公的年金は、図1からも確認できる通り、加入者の就労形態や居住地(都市・農村)に応じた三つの制度から成っているが、現行の制度体系が形成されるまでには様々な変遷を辿って来た。また、現行の制度体系もまだまだ多くの課題を抱えており、まさに改革が進められている最中であると言える。ここからは、公的年金制度に焦点を絞り、その大まかな変遷や制度概要を説明していく。ただし、その変遷や制度は複雑であるため、初めて触れる場合には内容の理解がやや困難であるように感じる。更に、中国に独特のいくつかの背景要素が理解の障壁となると同時に、公的年金制度の抱える課題にも繋がっていると考えられる。そこで、まずはそれらの背景要素を説明し、その後に公的年金制度の変遷や概要説明に移りたい。(3) 中国の公的年金制度理解の助けとなる背景要素中国の公的年金制度をより理解するために把握しておくべき背景要素として、(ア)都市戸籍と農村戸籍、(イ)計画経済から市場経済への移行、(ウ)公的年金制度運営における地方政府の裁量、の3点を説明する。(ア)都市戸籍と農村戸籍中国では、1950年代後半に、都市住民への食糧供給の安定や社会保障制度の充実などの観点から都市部への人口流入を制限することを目的に、戸籍を都市戸籍と農村戸籍に分ける戸籍管理制度が導入された。近年は、戸籍間の格差が問題視され格差解消に向けた制度改革が進められてはいるが、戸籍の区分は継続している。このように、中国の公的年金制度が長らく都市と農村で別々の制度として形成されてきた背景には、戸籍管理制度に起因する都市と農村の二元的社会構造がある。(イ)計画経済から市場経済への移行中国は1949年建国以降、経済体制が計画経済から1978年以降の改革・開放政策を経て市場経済に移行図1 中国の3本立ての年金制度中国の年金制度第3柱:個人年金第2柱:企業年金・職業年金第1柱:公的年金公務員養老保険(政府・公的機関・軍)公務員公的機関の就労者軍人都市職工基本養老保険(都市就労者)企業就労者個人事業者短時間労働者出稼ぎ労働者その他都市戸籍都市・農村住民基本養老保険(都市非就労者・農村住民)都市非就労者農村住民、移民都市職工年金都市・農民住民年金 ファイナンス 2020 Mar.31中国国務院発展研究センターとの共同研究及び中国年金制度の抱える課題SPOT
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