ファイナンス 2020年3月号 Vol.55 No.12
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構*2や千葉県内にある共同研究のテーマに関連した施設を訪問し、生涯現役社会や住民同士が助け合う社会の実現を目指した日本の地域包括的取組みや産学官連携例、介護保険制度に関して、2日間に渡ってヒアリング及び意見交換を行った。共同研究2年目には、1年目の研究交流を通して中国側の関心が特に高いと感じた「年金」と、近年イノベーションの進展が目覚ましい中国から日本が学ぶべき点として「デジタル・イノベーション」を加え、2つを小テーマとして掲げた。2019年11月に広東省広州市でコンファレンスが開催され、日本側からは「日本の公的年金制度の持続性」「高齢化社会における生産性に関する課題」の2つの発表を行った。また、視察ではDRCと共に広東省深セン市を訪問し、デジタル・イノベーションを活用して事務効率化や人件費削減を実現すると共に遠隔医療等の新しい金融サービスを提供する金融コングロマリットや、AIの画像認識を活用して自動運転車を製造するスタートアップ企業を訪問し、意見交換を行った。これらの視察を通して、改めて中国の先進的な技術革新の現状を学ぶことができた。*2) 東京大学高齢社会総合研究機構は、2009年に東京大学総長室総括委員会の下に設置された部局横断的組織であり、総合的学問体系であるジェロントロジー学※を推進している。また、他大学・民間の研究機関・企業・行政・地域等と連携し、豊四季台プロジェクトに代表されるような、超高齢社会対応のコミュニティづくり等の社会実験的なプロジェクトに取り組んでいる。 ※ Geront(高齢者:ギリシャ語)とology(学)を合わせた造語であり、高齢化に関わるあらゆる領域の「知」を結集して、超高齢社会の広範で複雑な課題を総合的・分野横断的に研究し、課題解決を目指す学問(老齢学)。*3) 2016年から「二人っ子政策」に移行。*4) 中国国家統計局「中国統計年鑑2019」より*5) 一般的に65歳以上人口の比率が7%以上を「高齢化社会」、14%以上を「高齢社会」、21%以上を「超高齢社会」と呼ぶ。中国は2000年(7.0%)から2001年(7.1%)にかけて「高齢化社会」となった(中国統計年鑑2019)。*6) 内閣府「令和元(2019)年版高齢社会白書」より*7) 国際連合「World Population Prospects 2019」より3中国の年金制度の現状(1)中国の高齢化の状況ここからは、DRCとの共同研究でテーマとして取り上げ、中国側の興味及び問題意識も非常に強いことが窺えた中国の年金制度を巡る状況を紹介する。まずは、その問題意識の前提にあると考えられる中国の高齢化の状況を簡単に確認する。中国では、1979年から2015年まで実施された「一人っ子政策*3」に伴い出生率が低下したことにより、高齢者人口の割合が増加し少子高齢化が急速に進展している。65歳以上人口が総人口に占める比率である高齢化率は、2018年末で11.9%*4と既に「高齢化社会*5」の基準となる7%を超えており、高齢者人口は1億6千万人以上と日本の総人口を上回る規模となっている。日本の高齢化率は2018年10月1日時点で28.1%*6であることから、高齢化率では中国の現状はまだ日本には及ばないが、中国も2025年には14%を超え「高齢社会」に、2036年には21%を超え「超高齢社会」へと比較的早いスピードで高齢化が進行する見込みである*7。加えて、総人口は2030年頃をピークに減少するという予測もある。また、中国の高齢化社会の現状を象徴する「4・2・1社会」という言葉がある。これは、「一人っ子政策」広州でのコンファレンス深センでの視察(レベル4対応の自動運転車)30 ファイナンス 2020 Mar.SPOT

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