ファイナンス 2020年3月号 Vol.55 No.12
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1はじめに*1財務総合政策研究所(以下、財務総研)では、国際交流活動の一環として中国のいくつかの研究機関と研究交流を実施している。交流先の一つである中国国務院発展研究センター(Development Research Center, the State Council of the PRC、以下DRC)とは、現在、日中両国に共通する課題となっている「人口構造の変化」をテーマに掲げ共同研究を行っている。本稿では、財務総研とDRCの共同研究におけるこれまでの活動を簡単に紹介した後に、同研究を通じて確認することができた中国の高齢化の状況や、それに伴う社会保障制度、特に年金制度の現状及び課題についての概観を整理し情報を共有したい。2財務総研とDRCの共同研究(1)共同研究の経緯DRCは、中国国務院直属の政策志向の研究機関であり、中国の経済情勢や経済政策の動向について分析を行っているほか、重要な経済問題について政策当局に対し活発に政策提言を行っている機関である。財務総研とDRCとの共同研究は過去にも、2003年から2007年までの間、「中央と地方の役割分担と財政の関わり」などをテーマに行われており、日中双方で共同研究会や地方視察を実施し、双方の研究論文等からなる共同報告書を作成するなどの交流活動を行った。その後、DRC側から共同研究再開の要望があったことを受けて、2018年4月、改めて4年間に渡る共*1) 本稿を執筆するにあたり、片山ゆき准主任研究員(ニッセイ基礎研究所)や林ひとみ課長補佐(財務省財務総合政策研究所総務研究部国際交流課)、その他関係者から大変貴重な助言や示唆を賜った。ここに記して謝意を表する。また、本稿の内容及び意見は筆者の個人的な見解であり、筆者の所属する組織の見解を示すものではなく、本稿における誤りは全て筆者に帰する。同研究に関する覚書を締結するに至り、「人口構成の変化のマクロ経済的帰結と財政の持続性」を大テーマとして共同研究を開始した。(2)2018年以降の共同研究今回の共同研究では、2020年2月現在までに計3回のコンファレンス及び視察を行ってきた。共同研究1年目は、中国側の関心事項である「年金」と「介護」を小テーマとして計2回のコンファレンス及び視察を行った。2018年9月は北京市でコンファレンスを開催し、日本側からは「少子高齢化と日本の公的年金制度改革」「日本における人口動態の変化と経済成長」の2つの発表を行った。また、視察ではDRCと共に江西省南昌市を訪問し、共同研究のテーマに関連した介護施設等の視察および省政府関係者や企業代表者と年金制度等に関する意見交換を行った。視察を通し、中国では「未富先老(old before rich)」が社会的な課題であり、豊かになる前に高齢化社会になったことで、「介護」に関しては、高齢者向け介護サービスが十分に整っていないことや、在宅介護ポリシーが依然として浸透していないなどの課題があることがわかった。2019年3月は東京でコンファレンスを開催し、日本側からは「年金制度に対する国民の理解を得るための取組み」「日本の公的年金制度における財政方式の変遷」「日本における人口動態の変化の生産性・潜在的経済成長への影響」の3つの発表を行った。また、視察では、DRCと共に東京大学高齢社会総合研究機中国国務院発展研究センターとの共同研究及び中国年金制度の 抱える課題*1財務総合政策研究所 国際交流課 研究員 原 陽亮財務総合政策研究所 国際交流課 研究員 石川 裕彬 ファイナンス 2020 Mar.29SPOT

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