ファイナンス 2020年2月号 Vol.55 No.11
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レート自体は短資会社*32などに電話をすることでその水準を確認することができますが、期間が長くなるほどその正確な値を得ることは難しくなります。その一方、ネット・ベーシスの計算に用いられるレポレート以外のすべての情報(現物および先物の価格など)は容易に観察できるため、発想を転換し、先物と現物の間に十分な裁定が働いていることを前提にレポレートを逆算することを考えてみます。これは裁定が働いていることから示唆される(インプライされる)レートという意味で、インプライド・レポレート(Implied Repo Rate, IRR)といいます。IRRの有益な点は、裁定が働いているという条件を置くことで、受渡日まで遠い場合、本来見えないSCレポレートが見えるようになる点です。IRRではネット・ベーシスがゼロであると想定してSCレポレートを抽出することを考えます。ネット・ベーシスがゼロの場合、「現物価格+(レポ・コスト-利子収入)-先物価格×CF=0」が成立します。この式は「レポ・コスト=先物価格×CF+利子収入-現物価格」という形でレポ・コストに関する式へ変換することができます。IRRはこれを年率のリターンにした式になります*33。IRR=[先物価格×CF+利子収入-現物価格現物価格] ×(360受け渡しまでの期間)*32) 短資会社とは主に短期の貸借を行う際の仲介業を担う金融機関を指します。詳細は東短リサーチ(2019)などを参照してください。*33) この式はBurghardt and Belton(2005)やChoudhry(2006)を参照としています。Bloombergでは経過利子等について明示した定義式を用いています。*34) 例えば、Bloombergが提供するJBA Comdty DLVという機能を使えば、CF、グロス・ベーシス、ネット・ベーシス、IRRについて銘柄ごとの一覧を見ることができます。*35) 東京レポ・レートとは日本証券業協会が公表しているGCレポレートであり、円金利における代表的なGCレポレートです(正式名称は「東京レポ・レート(レファレンス先平均値)」です)。具体的には、国内大手金融機関などが午前 11 時時点のレートを報告し、対象期間ごとに上位および下位15%相当を除いた単純平均値を計算しています。本稿では1か月と3か月のみを紹介していますが、翌日物や1週間先などほかのタームについても公表されています。IRRを用いることの最大のメリットは、IRRを用いることで先物と現物の間に十分な裁定が働いているかどうかを確認することができる点です。IRRの計算に際し、現物と先物の間で裁定が働いている点(ネット・ベーシスがゼロになるという点)を仮定していましたが、現実のマーケットにおいてその裁定が十分に働いているとは限りません。そこで、例えば、流動性の高い短期間のSCレポレートやGCレポレートのタームストラクチャーなど他のレポレートと比較検討し、現在のIRRの水準が正当化されるかどうかを考えることで、現物と先物の裁定がどの程度働いているかについて評価を行うことができます。筆者は市場参加者から「JGB市場の参加者はIRRを必ずチェックする」と指摘されたことを今でも覚えていますが、これは最も流動性が高い先物の価格が実際の現物の価格にどの程度反映されているかを確認する上で重要なプロセスといえます。3.4  インプライド・レポレートの計算例と解釈図4では、2019年10月末時点における受渡適格銘柄の一覧に加え、グロス・ベーシス、ネット・ベーシス、IRRを示しています*34。この場合、受渡日が2019年12月20日ですから受渡日までの期間が2か月弱ある状況です。正確なネット・ベーシスを計算するためには受渡日までの期間に相当するSCレポレートが必要ですが、図4では3か月の東京レポ・レート*35(-0.123%)を用いて、簡易的にネット・ベーシスを計算していま図3 7年国債(チーペスト)を用いたSCレポでのファンディングのイメージ国債の店頭市場SCレポ市場JGBトレーダー店頭市場で7年国債を購入7年国債を担保に提供することで7年国債を購入するための資金を調達 7年国債7年国債7年国債現金 ファイナンス 2020 Feb.77シリーズ 日本経済を考える 97連載日本経済を 考える

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