ファイナンス 2020年2月号 Vol.55 No.11
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る努力が続き、直近では半数以上の取引が現先に集約されています(詳細はBOX 3を参照ください)。ちなみに、タックマン(2012)などのファイナンスのテキストでは現先と有担保ローンを同等とした説明がなされることが少なくなく、法的な位置づけは違うものの、経済効果は現先でも貸借でも同じと考えて大きな問題はありません*26。3.2 GCレポとSCレポレポ取引はGC(General Collateral)レポとSC(Special Collateral)レポという2つの異なる取引に分かれていますが、これは受渡を行う債券に対してニーズが異なることなどが背景にあります。GCレポの場合、銘柄の個別性を特に考慮せず、国債全般を担保とした資金調達や運用で用いられます。一方、SCレポの場合、例えば現物と先物の裁定を行う場合のように特定の国債(例えば7年国債)がほしい、というときに用いられます*27。レポレートについていえば、GCのレート(GCレポレート)がレポ市場全体の運用と調達の需給で決まるのに対して、SCのレート(SCレポレート)は個別証券の需給関係で決まる点が異なります(GCとSCのスプレッドを取ることで個々の証券の需給状況を見ることもあります)。2019年における取引の残高でみると、おおよそGCレポが7割、*26) マージン・コール等で細かな違いがある点にも注意が必要です。詳細は菅野・加藤(2001)や東短リサーチ(2019)などを参照してください。*27) 本稿では国債市場におけるベーシス取引に焦点を当てているため、ここでは7年国債との裁定という観点でSCレポ取引の事例を挙げています。もっとも、東短リサーチ(2019)が指摘しているとおり、SC市場における取引の多くは、証券会社のトレーダーがマーケットメイクを行う上で、特定の銘柄のニーズが発生することにより生じる取引です。*28) 日銀による「わが国短期金融市場の動向̶東京短期金融市場サーベイ(19/8月)の結果̶」を参照しています。*29) ここではGCレポを用いた資金調達の例を取り上げていますが、国債の入札では特定の銘柄を在庫として保有するため、SCレポを用いて資金調達をすることもできます。*30) 例えば、国債の入札の結果、1000億円落札した場合、国債の決済はT+1であるため、翌日財務省に支払いをする必要があります。もっとも、1000億円の国債を落札した場合、その分の国債を保有することができるため、レポ市場にいけばそれを担保にして資金調達ができます。レポ市場もT+1で決済できるため、翌日資金調達ができ、財務省に支払いをすることができます。なお、2年債の入札時など、決済のタイミングが異なるケースがある点に留意してください。また、実際には入札で落札した国債をJGBトレーダーがすべて在庫として保有するわけではなく、事前に注文を受けていた投資家に国債を販売することなどを通じて在庫の整理を行います。*31) 現物と先物の裁定を行う上で、例えば先物の受渡が2か月先である場合、7年国債を購入するため、2か月間資金調達をしてくる必要があります。ただ、レポ市場はオーバーナイトのような短期調達の方が流動性が高いため、例えば、2か月間、満期が来たらまた借りるというロールをしていくことも少なくありません。SCレポが3割程度というイメージです*28。図2は、国債の入札に参加するJGBトレーダーが国債入札時のファンディングのためにGCレポを用いているイメージを示しています*29。JGBトレーダーは入札に際し、典型的にはオーバーナイトなどの短期で資金調達を行いますが、レポ市場で担保を差し出すことで資金調達を行います*30。JGBトレーダーはこの際、GCレポレートを調達コストとして支払います。では、「現物ロング+先物ショート(ロング・ベーシス)」という現物と先物の裁定を行う場合はどうでしょうか。7年国債を購入する際、その資金調達を行う必要がありますが、SCレポ市場にいけば7年国債を担保にして資金調達を行うことができます。図3がこの時の取引のイメージ図になりますが、この際に支払う調達コストがSCレポレートに相当します。前節では、「ネット・ベーシス=(現物価格-キャリー)-先物価格×CF」を定義しましたが、ここでのキャリー(=利子収入-レポ・コスト)を計算する際、厳密にはSCレポレートを用いる必要があります*31。3.3 インプライド・レポレートとはこの裁定を行ううえでの問題点は、受渡日までの期間が遠い場合、流動性が低くなること等を背景に、SCレポレートが観測しにくくなる点です。SCレポ図2 GCレポを利用した資金調達のイメージ(国債入札時)GCレポ市場国債を担保に提供現金国債の発行国債国債JGBトレーダー財務省76 ファイナンス 2020 Feb.連載日本経済を 考える

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