ファイナンス 2020年2月号 Vol.55 No.11
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ド*19を見ることが少なくありません。これらのスプレッドは、足元の市況や国債入札の結果などを解釈するうえで頻繁に用いられます。スプレッドが平均回帰的な動きをするかどうかは計量経済学の手法により検証することができます。詳細な説明は計量経済学のテキストに譲りますが、具体的にはスプレッドに対して単位根検定を行うことでスプレッドが平均回帰的な動きをしているかどうかを検証することができます。また、金利水準が単位根過程に従うと解釈した場合、変数間に共和分の関係があるかどうかを検証することで変数間の安定性を評価することも可能です。もっとも、実務的には実際に検定を行うのではなく、自らが平均回帰すると考えるレンジ(典型的には数か月の期間)に絞って考えることが多い印象です。学術研究においてスプレッドが平均回帰的な動きをすることをサポートするものは少なくありません。注意すべき点は、統計的にスプレッドが平均回帰的な動きをしていたとしても、それは、あくまでも過去の経験則に過ぎない可能性があることに加え、かりに平均回帰的な性質があったとしてもその回帰の期間が長くなることがあり得ることです。ジョン・メリウェザーに加え、ノーベル賞受賞者が参加していたことで注目を受けたロング・ターム・キャピタル・マネジメントはレラティブ・バリュー戦略に基づいた運用を行っていましたが、その破綻の一因として極端なイベントが起こる可能性を考慮しないなど、スプレッドの修正に係る判断ミスが指摘されることもあります。*19) 例えばアセット・スワップ・スプレッドのスプレッド(例えば10年のアセット・スワップ・スプレッド-5年のアセット・スワップ・スプレッド)などを見ます。スプレッドのスプレッドに着目したトレードはボックス・トレードといわれることもあります。*20) ここでは先物を考えるうえで最低限必要となるレポについて整理しています。レポについてより詳細に知りたい読者はレポトレーディングリサーチ(2001)、稲村・馬場(2002)、東短リサーチ(2019)、笹本等(2020)などを参照してください。また、日本銀行が実施する「東京短期金融市場サーベイ」は我が国におけるレポの動向を把握するうえで非常に有益です。*21) レポ・レートはレポ・コストを年率の利回りに直した概念です。*22) 国債を差し出し、現金を調達するケースをレポとして定義する一方、国債を受け取り、現金を差し出す逆の取引をリバース・レポと定義することもあります。*23) 前田(1998)は「(債券現先取引の)語源については「現時点で先日付の取引を確定する」であるとする説もあるが、定かでない」としています。*24) 正式には現金担保付債券貸借取引といいます。*25) この経緯については東短リサーチ(2019)などを参照してください。3.レポ市場とインプライド・レポレート3.1 レポ市場とは*20日本国債への投資を考えるうえで非常に重要なことは日本国債を保有する調達コスト(前述のレポ・コスト)を考えることです。我々個人が運用をする場合、貯金などの元手があるケースがほとんどでしょうから、運用の調達コストを意識することはあまりありません。しかし、金融機関などの機関投資家は調達コストを意識しています。銀行や生保のような投資家は預金者や保険加入者から資金の提供を受けており、預金金利等の形で調達コストを払っています。日本国債の店頭市場を作っている証券会社のトレーダーなどはそもそも元手となる資金を持っていないことが多く、自ら資金調達を行う必要があるケースも少なくありません。もっとも、例えば読者が日本国債の入札に際して資金調達が必要な場合、国債を保有することになるわけですから、国債を担保にして資金調達を行うことができます。これは我々が家を購入する際、購入する不動産を担保にしてお金を借りることができることと同じです。大切なことは国債を担保にした場合、その信用力の高さから調達コストを抑えることができる点です。このように国債を担保にした資金調達はレポ取引と呼ばれ、その時の調達コストをレポ・コスト(レポ・レート)といいます*21。そもそも、レポ取引の正式な名称は「Repurchase agreement」ですから、その名称自体は、貸借というより「買戻契約」という意味合いを持ちます*22。そのため国債を担保にした調達をレポ取引といわれると、その名称と一致していないという印象を受けるかもしれません。実は日本の場合、かつて有価証券取引税という税があり、証券の売買には税金が課されていたため、買戻契約に相当する「(債券)現先取引」*23ではなく、国債を担保に現金を受け渡す貸借取引*24が拡大しました*25。もっとも近年、海外との平仄を合わせることなどを背景に、貸借ではなく現先取引を普及させ ファイナンス 2020 Feb.75シリーズ 日本経済を考える 97連載日本経済を 考える

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