ファイナンス 2020年2月号 Vol.55 No.11
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2020)を前提に議論を進めていきます。服部(2020)では先物の基本的な設計について日本国債先物に焦点を当てて解説を行っています。本稿の構成は以下の通りです。2節では国債市場における現物と先物の裁定を考え、残存7年の国債が先物の受渡に用いられる理由について説明を行います。3節では現物と先物の裁定についてレポ市場の観点で議論を行います。4節が結語です。2. 日本国債市場における現物と先物の裁定2.1  ベーシス取引とは服部(2020)では国債先物*5を購入(売却)した場合、残存7年の国債(7年国債*6)が受け渡されることを前提に議論をしてきました。なぜ国債先物と7年国債の連動性が高いかというと、これまでの相場では、残存7~11年の国債の中で、先物の売り手にとって7年国債を受け渡すコストが一番低い状態が続いているからです。本稿では日本国債市場における現物と先物の裁定に焦点を当てますが、ここから自分が日本国債で運用を行う機関投資家になったことをイメージしながら、現物と先物の裁定行動を少し厳密に考えてみましょう*7。*5) 本稿では特別記載しない限り長期国債先物を前提に議論を進めます。*6) 本稿では記述の煩雑さを避けるため、受渡適格銘柄の中で最も残存7年に近い10年利付国債を「7年国債」と記載します。*7) 小説ではありますが黒木(2008)の第二章では、日本国債先物導入時における現物と先物の裁定を行うシーンが描写されています。前述のとおり、国債先物と7年国債の連動性を前提とすれば、先物を売り建てた場合、受渡日に7年国債を受け渡す必要があります。7年国債そのものは店頭市場で取引されていますから、先物を売り建てると同時に、7年国債を買っておきます(図1のステップ1)。そうすれば先物の決済日に、すでに購入していた7年国債を受け渡すことができるため、事前に契約していた先物取引(売建)は無事、決済がなされることになります(図1のステップ2)。これが国債市場における現物と先物の裁定取引(ベーシス取引)に相当します。気を付けるべきことは先物取引において現物決済を行う場合、先物価格で7年国債を受け渡すわけではなく、コンバージョン・ファクター(CF)で調整する必要がある点です。服部(2020)で記載したとおり、国債先物では標準物と呼ばれる仮想的な国債を取引しますが、標準物の価格を国債の受渡価格へ変換するためにCFを用います(具体的には「受渡価格=先物価格×CF」で算出します)。そのため、先物と現物の間の裁定機会を考えるためには、「先物価格×CF(受渡価格)」と「現物価格」を比較する必要があります。例えば、1か月後に満期を迎える国債先物を1億円分(1枚)売り建てると同時に、現物の7年国債を1億円購入します。もし前者の価格(先物価格×CF)が100円であり、後者の価格(7年国債の価格)が図1 日本国債市場における現物と先物の裁定取引7年国債を購入ステップ1:7年国債の購入+先物の売り建て7年国債7年国債ステップ2:先物の決済日に7年国債を受け渡す先物を売り建てる先物の決済日に7年国債を受け渡す国債先物市場国債の店頭市場投資家7年国債7年国債国債先物市場投資家 ファイナンス 2020 Feb.71シリーズ 日本経済を考える 97連載日本経済を 考える

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