ファイナンス 2020年2月号 Vol.55 No.11
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カ. スタートアップの人材の流動性私も創業者の山田も2回目の経営経験であり「シリアルアントレプレナー(連続起業家)」と呼ばれています。米国を見ていると、スタートアップの人材流動性が非常に高くて、起業5回目、6回目という人ばかりです。日本では私たちが2回目なので、この流動性を高めていかないと、日本のスタートアップの成功率は上がらないと思っています。また、米国のスタートアップの成功率を見ると、40歳代の経営者が圧倒的に高いのです。米国では20歳代の経営者が成功すると思われがちですが、実は、米国のベンチャーキャピタルも経験や人脈のある40歳代が一番高い成功率なのです。日本でも40歳代での起業をもう少し支援していくことによって、成功率を上げていくことが大切ではないかと思います。(4)急成長を継続するMAU、GMVメルカリはこうして成功してまいりましたが、その後も、MAU(Monthly Active User:月間アクティブユーザー数)も1,350万人を超えました。また、GMV(Gross Merchandise Volume:流通高)も現在、月間ベースで400億円の中ほどぐらいです。これは、日本で言うと、Amazonや楽天がおよそ年間2兆円、ヤフーが1兆数千億円であり、5,000億円強の私たちは4番目ぐらいに位置しています。よくeコマースの中で比較されるのですが、メルカリは、誰かが在庫を持っているというモデルではありません。また、法人が入るモデルでもありません。個人間のマッチングだけで年間5,000億円ぐらいの取引をやっている会社なのです。そういう中でも年率50~60%伸びてきましたし、認知率も私たちが圧倒的に高い状況となっています。では、グローバル規模のネット企業と比べてどうなのでしょうか。実は、中国のアリババ・グループなどと比較しても流通高は違えど、それ以外の数値は引けを取らない数字になっています。成長率も6割近く、毎日アクセスするユーザーの割合も4割程度になっています。そうした方々による1日当たりの平均商品閲覧数は23品であり、非常に多くの方々が接触頻度高く利用していることが分かります。ユーザーの月間利用時間も5時間を超えています。(5)購買体験は「検索」から「探索」へAmazonや楽天のようなeコマースは、目的買いをするコマースで、サイトに入るときにはもう何を買うかが頭の中にあるのです。安さとか機能で選んでいるので、月間利用時間は1時間ぐらいです。では、メルカリがなぜ5倍の5時間もあるのでしょうか。これはソーシャルメディアとあまり変わらない時間数です。私たちは、メルカリは「コマースとメディアの中間」だと言っています。eコマースの場合、Amazonや楽天で売っている商品は、基本的に新品もしくはモデルとしては最新のものが多いのです。しかし、メルカリは、5年前、10年前の商品も売っています。消費者は必ずしも新品を欲しいわけではないのです。メルカリでは、いつの時代の商品にもアクセスできます。しかも、買う際には早い者勝ちなので、常にアクセスしないと、商品があるかないかも分かりません。さらに基本的には、商品は二次流通品なので価格も安いのです。メルカリはドン・キホーテに近いと思っています。私は、ドン・キホーテの店舗に行くとき、欲しいものは決まっていません。何かお得なものがあるのではないか、というモチベーションで店内に入り、一周して、帰るときには黄色い袋を持っているのです。まさしくこれが今の消費者のトレンドであると思っています。必ずしも効率的に自分の欲しい商品だけを買いたいわけではないのです。私はよく「検索」から「探索」という言い方をしています。「探索」をして購買体験を楽しむのです。ドン・キホーテやメルカリのように、「探索」のような購買体験で商品を探していくことが伸びていく。これは必ずしも効率性を求めない消費者が増えてきている一つの事例ではないかと思っています。(6)承認欲求をどう刺激するか私は、承認欲求が今の消費のトレンドだと思っています。メルカリを使う理由を尋ねるアンケートを取ると、1位は「もったいない」とか「自分の心が満たされる」であり、「金儲け」は決して1位ではないのです。私は、「社会との接点を大切にしたい」とか「自分の商品が他人から認められたことに対する心の潤いを求める」などといった承認欲求が満たされることが64 ファイナンス 2020 Feb.連載セミナー

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