ファイナンス 2020年2月号 Vol.55 No.11
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人手不足の背景・人手不足の解消のためには、非労働力人口の労働力化も重要であるが、ここでは求人・求職のそれぞれの立場での「不一致」に注目してみたい。・職業別に有効求職者数と有効求人数の差をとると、一般的な事務職では、求職が求人を上回っている。一方で介護サービスや販売の職業、飲食物調理の職業などで求人が求職を上回り、人手不足感が強く出ている。一定の経験や技能が要求されたり、勤務時間が不規則な対人サービスなどで、高い報酬を得ることが難しい業種においては、人手不足の状況が生じやすいと考えられ、実際に、業種によって人手不足感のばらつきも大きいようだ(図表7)。・実際に、求職を行っていない者にその理由を尋ねた調査結果を見ると、賃金・給料が希望とあわないという理由に加え、「希望する種類・内容の仕事がない」や「勤務時間や休日」が挙げられている。求人が求職を上回るサービス業においては、休暇が希望とあわないことや、勤務時間が求職者側の希望と合致しないこともあるため、人手不足の背景には、労働力人口の減少だけではなく、賃金以外の求人条件と求職条件の不一致も影響しているようである(図表8)。(図表7)月間有効求人数と月間有効求職者数の差(職業別)▲400▲2000200400製造技術者建築・土木技術者等情報処理・通信技術者社会福祉の専門的職業事務的職業販売の職業介護サービスの職業飲食物調理の職業接客・給仕の職業保安の職業農林漁業の職業機械組立の職業機械整備・修理の職業輸送・機械運転の職業建設・採掘の職業運搬・清掃等の職業(万人)求人超求職超(図表8)仕事につけない理由別の失業者割合3020100賃金・給料が希望とあわない勤務時間・休日などが希望とあわない求人の年齢と自分の年齢とがあわない自分の技術や技能が求人要件に満たない希望する種類・内容の仕事がない条件にこだわらないが仕事がないその他(%)今後必要とされる方向性について・企業側では、近年、働き方改革などの取組みが推進されている。残業規制の強化・徹底や有給休暇取得などの改革は進められているが、柔軟な勤務時間や休日の設定といった改革については、まだ途上であることも窺える。多様な働き方を可能とするための柔軟性拡大は、企業側として、より強く意識する必要がありそうだ(図表9、10)。・もちろん、こうした取組みを拡大しつつ、求職者側が希望する賃金水準を実現するためには、柔軟な働き方の下でも高い付加価値を生み出すための工夫や、労働生産性を向上させる企業努力も必要不可欠である(図表11)。人手不足の業種において、状況を改善するためには、求職者の求める多様な働き方にも配慮しつつ、生産性向上によって、より良い求職条件を提示していくことで、求職者の希望する条件との乖離を埋めていくことが求められるだろう。(図表9)働き方改革の施策の導入率業務の効率化残業規制朝活・夕活テレワーク・在宅勤務有給休暇の取得促進インターバル規制(%)0.080.060.040.020.0(図表10)働き方改革の具体的な取組み有給休暇取得の推進ノー残業デーなど、長時間労働の見直し在宅勤務など、多様な働き方の推進女性管理職登用など、女性活躍の推進定年引上げなど高齢者雇用の促進外国籍や留学生の雇用の促進その他※「『働き方改革』実態調査(2019年11月)」にて「今いる会社では、働き方改革に取り組んでいる」と回答した人に聞いた会社の具体的な取組み。(複数回答あり)。020406080(%)(図表11)労働生産性と賃金の関係労働生産性労働分配率時間当たり実質賃金※内閣府公表資料を基に作成。(累積変化、%)▲10.030.020.010.00.02000051015(年)(出典)総務省「労働力調査」、厚生労働省「一般職業紹介状況」、日本銀行「短観」、(株)東京商工リサーチ、(独)経済産業研究所「長時間労働是正と人的資本投資との関係」(2019年4月)、エン・ジャパン(株)「『働き方改革』実態調査(2019年11月)」、内閣府「令和元年度年次経済財政報告」 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2020 Feb.59コラム 経済トレンド 68連載経済 トレンド

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