ファイナンス 2020年2月号 Vol.55 No.11
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1はじめにウズベキスタンは、アジアとヨーロッパを結ぶかつての交易路(シルクロード)沿いに位置しており、古来よりシルクロードの要衝として、様々な文化・文物の交差点となっていた。最近はテレビや映画でも同国が取り上げられる機会が増え、以前に比べて馴染みが深まってきてはいるが、同国について詳しく知らない者も依然として多いのではないかと思う。2019年12月にはミルジョーエフ大統領が初来日し、安倍総理大臣との首脳会談が行われたこと等により、同国への注目度が高まってきていることを受け、本稿では、同国の政治・経済情勢及び財務総合政策研究所(以下「財務総研」)が実施している知的支援について紹介したい。2政治情勢等同国は以前、ソビエト連邦を構成する共和国の一つであったが、1991年のソビエト連邦崩壊を受け独立を果たした後は市場経済化を進めており、今もまだその途上にある。初代カリモフ大統領はIMFが提唱した市場経済への急激な転換案を受け入れず、「ウズベクモデル」と呼ばれる漸進的な改革路線(gradualism)により国* 本稿を執筆するにあたり、財務総合政策研究所宗永特別研究官、その他関係者から大変貴重な助言や示唆を賜った。ここに記して謝意を表する。また、本稿の内容及び意見は筆者の個人的な見解であり、筆者の所属する組織の見解を示すものではない。*1) 2016年9月2日のカリモフ大統領逝去以降、大統領代行を務めていたミルジョーエフ首相(当時)は、同年12月4日に開催された大統領選挙に勝利し、12月14日に大統領に就任した。*2) 2017年2月に発表された「2017~2021年までの5つの優先的開発方針に関する行動戦略」を基に改革を実施。5つとは、(1)政府機構改革、(2)独立した司法による法の執行、(3)経済の自由化推進、(4)教育・社会保障・公共インフラの強化、(5)諸外国との友好関係の推進。*3) 為替レートは2013年2月と2016年7月に、政府が外貨両替規制を強化したため、公定レートと市場レート(闇レート)が大きく乖離することになった。2017年9月5日に外貨売買を自由化し、公定レートを4,200スムから市場レートと同じ8,100スムまで48%切り下げ、両レートの一本化を図った。*4) 外国企業が同国で活動するにあたっての大きな障害の一つが取り除かれたことで、世界銀行のビジネス環境評価ランキングは、2017年の87位から2018年の74位へと上昇した。なお、2019年は76位と若干順位を下げたものの、2020年は69位へと更に上昇した。*5) 2019年1月1日以降、年間売上高10億スム以上の企業の法人税(企業利潤税)は14%→12%に引き下げ、個人所得税は累進課税から単一税率12%とし、付加価値税(20%)の賦課対象品を拡大した。その後、同年9月に付加価値税を同年10月1日から15%へ引き下げ、法人税は2020年から15%へ引き上げることを決定した。*6) 隣接する全ての国が内陸国。世界でウズベキスタンとリヒテンシュタインの2か国のみ。家管理による経済運営を実施した。海外経済への依存度が限定的だったこともあり、リーマンショックや欧州債務危機の影響が小さかったというプラスの側面もあったが、結果的に市場経済化・構造改革の遅れを招いたとの意見もある。一方、2016年に就任したミルジョーエフ第2代大統領*1は、カリモフ初代大統領とは対照的に、IMF等国際機関の提言を受け入れ、経済システムの自由化、投資環境の改善を重視し、様々な改革を実施している*2。特に注目される改革は、就任した翌年である2017年9月に実施した為替レートの統一及び外貨兌換の自由化*3であり、この改革を受けウズベキスタンのビジネス環境は大きく改善されたとの見方が多い*4。その後も、日本を含む26ヶ国にビザ無し渡航を認めたほか、通関手続きの簡素化、税制改革*5等を実施し、今現在も様々な改革を実行中である。3経済情勢等(1)概要同国は、世界に2か国しか存在しない二重内陸国*6であり、海洋に出るには2つの国境を越える必要があることから、外国との交易手段は空路を除くと道路・ウズベキスタンに対する 知的支援について*-政治・経済を眺めながら-財務総合政策研究所 国際交流課 国際交流専門官 平野 俊文/ 同 国際交流課 企画調整係長 櫻井 健二/同 国際交流課 研究員 平野 慎二46 ファイナンス 2020 Feb.SPOT

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