ファイナンス 2020年2月号 Vol.55 No.11
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とに特徴がある。専門大学の学生には、技術・ITや生命科学の分野を主として総合大学からの転学者も多数存在する。〈高等教育訓練校〉第三期教育には専門大学の他に、州立または私立の高等教育訓練校(Professional Education and Training Colleges)がある。これは、「看護」「経営」「社会福祉」「宿泊・レストラン」などの分野をはじめとして、実践的なカリキュラムを提供することに特徴がある。主に、連邦職業(専門)バカロレア資格を持たない、VET及び中等専門校の卒業生の受け皿となっている。また、バカロレアスクール卒業生も入学は可能だが、通常、職業経験があることが必要となる。期間は、実習も含めて全日制の場合は少なくとも2年間である。実践的な課題や口頭・筆記試験を通じて評価が行われ、修了すると連邦上級高等教育資格(Advanced Federal Diploma of Higher Education)が付与される。当該資格の保有者は専門大学の同分野の学士レベルに編入学することができる。〈連邦(上級)高等教育試験〉上記の専門大学、高等教育訓練校という通学を伴うコースとは異なり、試験を受けることで資格を獲得する道も開かれている。それが連邦(上級)高等教育試験である。受験資格は通常VET修了者で複数年の勤務経験をもつ者であり、また、上級試験を受験するには、前もって一般試験を合格しなければならない場合がある。したがって、連邦(上級)高等教育試験は、既にある程度の勤務経験がある者がさらに知識を深めるための試験と位置づけることができる。一般試験はおよそ220職種、上級試験はおよそ170職種が用意されており、試験は毎年1~2回実施される。試験前の準備コースが公立・私立の教育機関や産業団体によって提供されているが、必ず受講しなければいけないものではない。試験に合格すると、連邦(上級)高等教育試験資格*5) 他方、Renold et al.(2018)は、単に企業だけの都合に合わせた実習も望ましくないとしている。この場合、企業が求める以上の職業経験を提供しなくなるおそれがあり、実習生がより高度な技術を学ぶ機会を失いかねないとしている。したがって、学校と企業がバランスよく職業教育にかかわることが重要であると指摘している。((Advanced) Federal Diploma of Higher Education Examinations)が付与される。とりわけ上級試験は1933年の職業専門教育訓練法(Federal Vocational and Professional Education and Training Act)の中で定められたことに始まった古くからのもので、伝統的に特定の産業においては「マスター試験」と呼ばれており、一般試験と比較して過酷な試験である。なお、人気が高い分野は、一般試験は「人事管理」「経営学・技術管理」「警察」、上級試験は「補完医療」「監査」「農業」である。4職業教育・訓練の効果(1) 職業訓練の効果を高めるためのポイントとは?冒頭でも述べたように、労働者の「スキル」の面で日本はスイスに大きく水をあけられている状況であり、その理由の一つにVETをはじめとする職業教育があると考えられる。同制度を採用するスイス、ドイツ、オーストリアでは、若者の失業率が低く、また、資金面で産業界が大きく貢献しており、国の財政健全化にもつながるといった観点から、とりわけリーマンショック以降、世界中から注目されるようになった。具体的に、同制度のどのような点がスキルの向上に貢献しているのだろうか。Renold et al.(2018)は、職業訓練を行う上でのカリキュラムの作成・実施・改善における企業の関わりが重要であると述べている。経済・産業動向に必ずしも詳しくない学校側だけの都合にあわせた職業訓練では、労働市場が求めるスキルとミスマッチが生じ、最悪の場合、学生が時代遅れのスキルを身につけてしまうおそれもある*5。Renold et al.(2018)は、職業教育への企業の関りなどいくつかの重要なポイントを指標化し各国比較を行っているが、その中でスイスがオーストリアと並んで最も高い評価を得る結果となっている。企業がカリキュラムの作成や実際の職業訓練に深く関与し、実習生が身につける能力と労働市場が求める能力との間にミスマッチが起こりにくくなっており、このような仕組みによって、若い実習生が実習終了後 ファイナンス 2020 Feb.41最強の職業教育~スイスの職業教育の概要とその効果~ SPOT

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