ファイナンス 2020年2月号 Vol.55 No.11
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1はじめにスイス 1位 / 日本 42位これは、World Economic Forum(WEF)が各国の競争力をランク付けする「The Global Competitiveness Report 2019」における「(高校、大学等の)卒業生の知識、技能(Skillset of graduates)」の順位である。同レポートの総合ランキングだけを見ると、スイスが5位、日本が6位と国際競争力全体としては僅差であるが、卒業生のスキルの面では、日本はスイスに大きく水をあけられている。なぜ、このように両国における評価に大きな差があるのだろうか。例えば、日本と比べてスイスの大学の質が高いからといった考え方があるだろう。Times Higher Education(THE)は、論文引用、教育、研究の観点から13の指標を用いて大学をランク付けする「World University Rankings」を公表しているが、2020年の結果では、多くのアメリカ、イギリスの大学が上位を独占する中で、連邦工科大学チューリッヒ校が13位にランクしており、このほか、連邦工科大学ローザンヌ校、チューリッヒ大学、バーゼル大学が100位以内にランクインしている(日本は東京大学が36位、京都大学が65位と2大学のみが100以内にランクイン)。九州ほどの面積しかなく、人口も日本の10分の1以下のスイスにおいて、100位以内の大学が日本以上にあることには驚きである。他方、本稿では、大学レベルも含めた義務教育以降の「職業教育」に注目してみたい。後ほど詳しく述べるが、スイスでは義務教育を終えた学生のうち、6割以上*1) 本稿の作成にあたり、掛貝祐太氏(慶應義塾大学)、山田昂弘氏(財務総合政策研究所)、佐野春樹氏(財務総合政策研究所)から貴重なコメントを頂戴した。ここに記して感謝の意を表したい。なお、本稿の内容はすべて筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではなく、また、本論文における誤りはすべて筆者個人に属する。が企業での実習と学校での勉学を両立する職業教育・訓練(VET:Vocational Education and Training)に在籍している。他方、日本では7割以上が学校において主に普通教育を受ける高等学校普通科に在籍しており、義務教育後の両国の教育事情に大きな違いがあることが分かる。スイスのVETについては、特に雇用の面でプラスの効果をもたらすといった観点から優れた制度であるとの評価があり、リーマンショック後の世界的な景気低迷期に若者の雇用情勢が悪化する中でとりわけ注目されるようになった(SCCRE, 2018)。チューリッヒ北東の都市ヴィンタートゥアでは、2014年以降、職業専門教育訓練に関する国際会議(International Congress on Vocational and Professional Education and Training)が開催されており、行政、教育、企業、国際機関などの関係者を交えた議論や経験の共有が図られている。本稿では、このような観点から、Hoffman et al.(2015)がヨーロッパの中で「最強」と評したスイスのVETをはじめとする職業教育を概観した上で、その効果について述べていくこととしたい。2日本の教育制度の概要スイスの職業教育を概観する前に、日本の教育制度についても簡単に紹介しておこう。現在の学校体系の基本部分は戦後間もない頃、教育基本法と学校教育法の制定を通じて構築された。すなわち、義務教育期間を6年から9年に延長し、6-3-3-4制の単線型体系を構築するなどの見直しが行われた。その後、高等専門学校(昭和36年)、専修学校(昭和最強の職業教育 ~スイスの職業教育の概要とその効果~財務総合政策研究所総務研究部総務課長 佐藤 栄一郎*1 ファイナンス 2020 Feb.37SPOT

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