ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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取引最終日に向けて限月間スプレッド取引の取引量が増えていく傾向がありますが、これは取引最終日に近*34) このBOXではハル(2016)などを参照しています。このBOXの作成にあたり、石田良氏や藤原哉氏にサポートをいただきました。*35) タックマン(2012)では「先物契約に対する直感的理解において有用な近似的な計算方法が存在する。先物のコンバージョン・ファクターは最終受渡日時点において想定クーポン・レートに等しい最終利回りで割り引いた額面1ドルの債券価格とおおむね等しくなる」(p.450-451)と説明しています。*36) 固定利付債の場合、金利の変化に対する債券の価格感応度は概ね年限に一致するという特性を持っています(金利感応度をデュレーションという「期間」を用いた概念で表現する背景にはこれがあります)。これは年限が長くなるほど、キャッシュフローを固定する期間が長くなるため、金利が変化することによる効果が大きくなるためです。づくとヘッジをロールするニーズが生まれてくるからです。BOX 3 コンバージョン・ファクターの導出*34前述のとおり、国債先物では標準物と呼ばれる架空の国債を取引しています。そのため、実際の受渡にあたっては、標準物の価格を個々の受渡銘柄の価格へ変換する価格調整が必要になります。その調整の役割を果たしているものがコンバージョン・ファクター(CF)です。CFの基本的なアイデアは、仮に標準物の世界のイールドカーブ(6%フラットのカーブ)が実現した場合における標準物と受渡適格銘柄の現在価値をそれぞれ計算したうえで、その比較を行うというものです。具体的には、「受渡適格銘柄の現在価値=標準物の現在価値×CF」という形で係数をかけることにより価値が等しくなるような調整を行います。すなわち、CFは下記のように定義できます。CF=受渡適格銘柄の現在価値標準物の現在価値標準物の現在価値はクーポン6%の架空証券を6%のカーブで評価しているため、標準物の単価は100円になります。この結果を用いれば上記の式は下記になります。CF=受渡適格銘柄の現在価値100CFの直感的な理解をする際のポイントは、受渡適格銘柄を6%のフラットカーブで割り引いているので、「受渡適格銘柄の現在価値」は実際の受渡銘柄の複利が6%になるような単価を計算していると理解することです*35。実際、Bloombergなどのツールを用いて受渡銘柄の複利が6%になるような単価を計算し、それを100円で割れば、実際のCFとおおよそ一致する値が得られます。現在のように受渡銘柄のクーポンが非常に低い状況であるとCFは0.7程度の値をとります。これはクーポンの低い債券に投資して6%の複利利回りを実現するには、その債券が70円といった低い価格である必要があるからです(この価格を標準物の現在価値である100円で割るためCFは0.7といった値をとります)。受渡銘柄のクーポンが低くなるとCFは低くなりますが、これはクーポンが低いほど6%の複利利回りを実現するために受渡銘柄の価格が低くなる必要があるからです。また、年限が短い受渡銘柄のCFは大きくなる傾向もありますが、これも同じように考えることができます。前述のとおり、日本のような低金利下において6%の複利が実現する債券の価格を計算すると100円より低い値になります。もっとも、年限(デュレーション)が長くなるほど金利の変動に対して価格が感応的になるため、年限が短い残存7年の国債のほうが残存10年の国債より価格の低下幅が低くなります*36。あるいは、残存10年の国債の場合、投資期間が10年になるため、6%の複利利回りを実現するには価格がより一層大きく低下しなければならないと解釈することもできます。そのため、クーポンが標準物の6%より低い状況であると、年限が短い(長い)国債のCFが大きく(小さく)なる傾向が生まれます。チーペストの詳細は翌月の論文で記載予定ですが、この性質はチーペストを考えるうえで用いる性質です。 ファイナンス 2020 Jan.70シリーズ 日本経済を考える 96連載日本経済を 考える

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