ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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ではなく)「売り建てた側」である点です。先物の現物決済に際し、売り手側に選択権が与えられている理由は、先物の買い手に選択権を与えてしまうと、例えば買い手が残存8年の国債を欲しいと主張したとしても、売り手がその銘柄を持っていない場合、受渡を行うことができないため、制度的な不安定性を有するからです。先物の売り手に選択権を与えておけば、売り手は7~11年のうち持っている国債を受け渡せばよいので、制度的に安定しています。一般的に金融契約において契約者が何らかの選択権を持っている場合、その選択権を「オプション」といいますが、先物の決済の受渡に関するオプションは「デリバリー・オプション」と呼ばれています。日本国債先物の場合、デリバリー・オプションといえば、7~11年の受渡適格銘柄の選択にかかるオプションですが、米国国債先物の場合、受渡をする時点(タイミング)を選ぶ権利も存在します*30。そのため、バスケットの中で銘柄を選べる権利を「クオリティ・オプション」、タイミングを選べる権利を「タイミング・オプション」と呼ぶこともあります*31。4.4  限月間スプレッド取引(カレンダー取引)先物は予約というよりリスク管理を目的として用いられることが多く、先物を用いる大部分の投資家は現物を将来欲しいと思って先物を買っているわけではあ*30) 詳細はタックマン(2012)やBurghardt and Belton(2005)など米国国債先物を解説している書籍を参照してください。米国の国債先物についてはCME(2013)も参考になります。ちなみに、Lin et al. (1999)は日本国債先物がクオリティ・オプションしか持っていない点に着目して分析をしています。*31) タイミング・オプションはさらにワイルドカード・オプションとエンド・オブ・マンス・オプションに分けることができます。これらの詳細はハル(2016)や重見等(2000)などを参照してください。*32) 国債先物を購入した場合、現物の受渡や反対売買で決済がなされます。そのため、国債先物を新たに売買することは未だ決済がなされていない契約総数を変化させることになります。建玉は「未決済契約の総数」と説明されるためややこしいですが、その時点における先物の契約総数と理解しておけば問題ありません。*33) 実務家は限月間(スプレッド)を買う/売るという表現を使います。りません。この事実はデータからも確認できます。図7は、2018年における国債先物の各限月の建たて玉ぎょくの動きを示しています。建玉とは未だ決済がなされていない先物の契約総数*32を意味しますが、特徴的なことは各月限の取引最終日前に建玉が低下していくことです。この理由は、現物の受渡を回避するため、最終売買日の前に反対のポジションをとることで、ポジションを解消しているからです。前述のとおり、先物は仮に売り建てていたとしても、取引最終日前に買い建てることで現物決済を回避することができます。受渡日が近づいている中で、先物のショートによるヘッジを継続したい場合、直近の限月を買い建てて現在のポジションをキャンセルすると同時に、翌月の限月を売り建てることでヘッジをロールすることができます。このような取引を限月間スプレッド取引(カレンダー取引)といい、それ自体取引されるマーケットがあります。国債先物は1985年に取引が開始されましたが、国債先物の限月間スプレッド取引は2000年に導入されました。受渡期日に一番近い先物を「期き近ぢか」、二番目に近い先物を「期き先さき」といいますが、現物の受渡を避けながらショート・ポジションを継続するためには「期近買い+期先売り」*33という取引を同時に行う必要があります。正確にロールするためにはタイミングが重要ですが、限月間スプレッド取引を用いればこの取引を同時に行うことができます。先物の図7 日本国債先物の建玉の推移2018年3月限2018年6月限2018年9月限2018年12月限0200,000100,00018/118/218/318/418/518/618/718/818/918/1018/1118/12(枚)(出所)Bloomberg69 ファイナンス 2020 Jan.連載日本経済を 考える

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