ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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能性もあります。一方、相対取引(店頭取引)の場合、様々な債券の流通市場(セカンダリー・マーケット)を作ることが可能になり、このことは市場の透明性などに寄与します。債券市場には様々な発行体が存在するだけでなく、発行される債券の年限も多様ですから、これらの債券をすべて上場させることは現実的ではなく、証券会社が在庫として抱えながら価格を提示することで市場を作っています。このような売買の仕方は債券にとどまりません。我々が普段購入するほとんどの財・モノはコンビニなどの店舗で在庫を抱えて相対で販売していますから、取引所取引のほうが例外的な取引と見ることもできます。相対取引は金融危機などに弱いとの見方もできますが、2008年の金融危機の反省を受けて、決済の短期化を進めるほか*14、デリバティブ取引でも中央清算機関を通じた取引を促すとともに適切な担保を求めるなど、相対取引でも様々な制度的工夫がなされています。このような文脈に照らして言えば、相対取引についても現時点では安定的な運営が可能になっていると評価することもできます。3.日本国債先物の仕組みここまで先物の概要を説明してきましたが、ここからは日本国債先物の商品性について確認していきます。前節で強調しましたが、以下で述べる多くの特徴は、取引所に上場させるため商品を標準化させるなどの工夫と解釈することが大切です。長期国債先物日本国債先物の大きな特徴は、長期国債先物以外は事実上、取引がなされていない点です。図3には長期国債先物の特徴が記載されていますが、制度的には中期国債先物や超長期国債先物も存在します。米国債市場などでは多くの年限の先物が取引されていることから、日本においてなぜ長期国債先物以外の先物(超長期国債先物など)が売買されないかは、日本国債先物*14) 日本国債については平成30年5月1日以降の入札から、決済期間(入札から発行までの期間)が原則T+2から原則T+1へ変更されています。国債の決済短期化については渡辺等(2016)、藤本等(2019)、財務省が発行する「債務管理リポート2018」のコラムなどを参照してください。*15) 例えば超長期国債を対象とする超長期国債先物については2014年に再開され一時的には取引されたものの、事実上、売買はなされていません。*16) 債券では100円を基準に考えますが、この基準価格を単価といいます。債券のクーポンと利回りが一致した場合、単価は100円になり、「パー」といいます。単価が100円を超えた場合をオーバー・パーといいますが(その逆をアンダー・パーといいます)、国債先物はオーバー・パーになっていると解釈できます。ゴルフでも勝ち負けゼロの状態を「パー」といいますが、債券の世界でも、100円を「パー」といいます。市場に触れたことがある人が一度は感じる疑問です。日本の取引所は先物が売買されなくなった際、その商品性を変えて再開するなどの努力をしていますが、あまり効果は見られていないというのが筆者の印象です*15。この原因について市場参加者の中で様々な議論がなされていますが、よく指摘されることは米国市場のように様々な運用戦略をとる投資家が相対的に少ないなど、超長期国債先物の投資家が少ないのではないかという点です。これ以外にも市場が生まれない理由として様々な点が指摘されますが、市場を作ることは簡単ではないことを示す良い事例であり、筆者の意見では未だ解決されていない哲学的な問題です。標準物前述のとおり、日本国債先物では標準物と呼ばれる架空の国債が取引されます。長期国債先物についてはクーポンが6%、残存10年の国債の売買がなされ、コンバージョン・ファクターと呼ばれる一定の計算式から算出される係数に基づき、残存7~11年の10年利付国債と交換ができる仕組みがとられています(コンバージョン・ファクターについては後述します)。図4は国債先物の価格の推移を示しています。債券の価格は商慣行で100円を基準としますが、近年では150円台をつけるなど、100円よりはるかに高い価格がついています*16。これは現在の金利が低い水準にあるにもかかわらず、架空の国債は6%という相対的に高いクーポンが付されているため、架空の国債の価格が高く評価されているからです。図3 長期国債先物取引の概要市場開設日1985年10月19日取引対象長期国債標準物(6%、10年)受渡適格銘柄残存7年以上11年未満の10年利付国債限月取引3月、6月、9月、12月の3限月取引取引最終日受渡決済期日(各限月の20日(休業日の場合は繰下げ)) の5日前(休業日を除外する)取引単位額面1億円呼値の単位額面100円につき1銭証拠金SPAN®を利用して計算決済方法1. 転売または買戻し 2. 最終決済(受渡決済)注:日本取引所グループの資料から抜粋。 ファイナンス 2020 Jan.64シリーズ 日本経済を考える 96連載日本経済を 考える

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