ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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受渡を行うことができる仕組みがとられています。将来受渡するタイミングも「受渡日」という形で標準化がなされています。日本国債先物では、「3月限(「さんがつぎり」と読みます)」、「6月限」、「9月限」、「12月限」という形で、四半期毎に受渡日が設定されています。先物のプライシングという観点で重要な特徴は値洗い(Mark To Market)*10ですが、これも取引所取引の工夫の一環と解釈できます*11。先物取引の場合、金融機関どうしで取引する先渡とは違い、取引所に参加する多数の投資家(必ずしもなじみのない相手)と取引することになります。必ずしもなじみのない相手との取引には取引の履行可能性などについてリスクがありますが、毎日値洗いし、勝ち・負けのポジションを清算することで安全性を担保しているわけです*12。制度的には、先物に関する勝ち負けをその日の終値で一旦決済し、それと同時に、もう一度強制的にその日の終値で同じポジションを取り直す仕組みがとられています。このように聞くと先物は忙しい取引に思われますが、制度的に十分な証拠金を参加者に求めることで、自動的にこのプロセスがとられる仕組がとられています。証拠金が不十分だと、証拠金が追加的に求められますが、これがいわゆる「追おい証しょう」と呼ばれるものです。冒頭で先物の価格には多くの投資家の意見が反映しているため重要な意味合いを持つことを強調しましたが、このような制度的な工夫があるからこそ、先物は多数の投資家が参加することが可能になります。たとえばある金融商品が1日に1回取引されて100円の価*10) 値洗いとは、先物などの金融商品を時価で再評価することを意味します。*11) この段落での説明は村上(2015)を参照しています。同書では「先物とフォワードの経済学的に本質的な違いは先物における値洗い(Mark-To-Market)の存在である」(p.168)としています。本文における「忙しい取引」という表現も同書におっています。*12) メラメド氏は「値洗いすることにより価格変動による損失が累積しないようにする「無借金制度」というべきもの」(メラメド, 2010, p.17)と表現しています。*13) メラメド(2010, p.15)より抜粋格が付いた場合、それは一部の投資家の意見が反映されているにすぎません。しかし、1日数兆円の売買がなされた結果、100円という値段が付いたとすれば、そこには多くの人々の意見を集約した情報が含まれます。前述のとおり、国債先物市場は債券市場の中で最も活発に売買される市場ですが、投資家は先物と現物の裁定を行うため、先物価格に含まれる情報はその裁定を通じて現物の国債に影響を与えます。その意味で、国債の動きを理解するうえでも先物の価格は最も重要な情報とさえいえるのです(国債のイールドカーブの決定要因については服部(2019)をご参照ください)。2.4 取引所取引と相対取引の特徴先物の重要な特徴として取引所取引を挙げましたが、取引所取引と相対取引のどちらが良いかは一概に言えません。取引所取引のほうが多くの投資家が取引するため、流動性は高いといえます。また、金融危機の際、取引所取引のほうが厳格な証拠金等の制度があることから、安定性が高いとみることもできます。CMEのレオ・メラメド氏は「業績、歴史、財力を備えた錚々たる金融機関でさえ、揺らいだり倒れたりした前例のない世界規模の金融溶解のさなかにあっても、CMEは完全無欠に機能した」*13とコメントしており、2008年の金融危機時における取引所取引の安定性を誇っています。さらに、三菱東京UFJ銀行(2014)が指摘している通り、金融危機以降、店頭市場で取引されるデリバティブを先物取引で取り込もうとする動きもみられており、先物取引が深化・発展していく可図2 相対取引と取引所取引の比較<相対取引:先渡><取引所取引:先物>相対で取引取引所など主体A主体B主体A主体B63 ファイナンス 2020 Jan.連載日本経済を 考える

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