ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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合*8)に利益を得るポジションをショート・ポジションといいますが、国債先物を用いれば簡単にショート・ポジションを作ることができます。先物が予約であることを思い出せば、国債先物を売り建てるとは、あらかじめ定められた価格で将来国債を受け渡す約束を現時点で行うことですから、将来国債の価格が低下した場合、相場より割高の値段で受け渡すことができます。すなわち、先物を売り建てることで国債価格が下落した場合に利益を上げるポジションを作ることができるのです。読者の中には現物の国債を空売りすることで、リスク管理をすればよいと思うかもしれませんが、実は、現実のマーケットで国債を空売りすることは簡単ではありません。このポジションを構築するために、(1)国債を借りてきて、(2)それを売却するという行為が必要です。国債を貸し借りする市場としてレポ市場がありますが、この市場で空売りできる金融機関は、国債のマーケット・メイクを行う証券会社に加え、一部の大手金融機関や外国人投資家にとどまり、基本的には現物で空売りをすることは簡単ではありません。金利の変動に伴う価格変動リスクを「金利リスク」といいますが、日本国債先物を用いれば、ショート・ポジションを作ることで金利リスクをヘッジすることが容易になるのです。図1は国債の入札に際し、日本国債のトレーダーが先物をもちいてヘッジを行っているケースを示しています。前述のとおり日本国債は現在、入札によって発行がなされています。具体的には、金融機関の中で日本国債の在庫管理を担うトレーダー(JGBトレーダー)*9が入札に参加しますが、彼らは入札の結果、一時的に巨大な国債の在庫を抱える可能性があります。この場*8) 金利と価格は逆の動きをします。債券(固定利付債)の場合、クーポン(キャッシュフロー)が固定されていますから、価格が上昇すると、その債券のリターン(金利)は低下します。(他の条件を一定にすれば)購入する価格が上がればリターンが低下することは、株式や不動産などすべての資産について共通して言えることです。*9) JGBディーラーという表現が使われることもあります。合、典型的にはJGBトレーダーは先物を売り建てることでこのポジションの有する金利リスクをヘッジします。たとえば、JGBトレーダーが100億円の10年国債を一時的に保有する場合、トレーダーは100億円分のリスク量に相当する先物を売り建てることで、保有している国債の金利リスクをヘッジします。2.3  先渡(フォワード)との違い:先物の本質は取引所取引先物を学んだ際、最初に混乱する点が先渡(フォワード)との違いです。先渡取引も代表的な金融派生商品の一つですが、先物と先渡は将来の予約という観点では全く変わりません。先物取引と先渡取引の最大の違いは予約という観点ではなく、先物が取引所取引である一方、先渡が相対取引であるという違いであり、その本質的な違いは制度的工夫の違いにあります。図2に記載しているとおり、先物取引では、たとえば上場株と同様、日本取引所グループなどに上場されており、取引所を通じて売買がなされます。一方、先渡取引の場合、主に金融機関を中心とした機関投資家の間で相対取引がなされます。相対取引がなされる市場を店頭(Over The Counter, OTC)市場といいます。かつて先物を勉強したことがある読者の中には先物の制度が複雑と感じた人もいるかもしれませんが、その理由は先物が取引所取引であることに起因しています。たとえば、先物を取引所に上場させるためには、投資家のニーズに合わせる形で商品を標準化させる必要があります。国債先物では、すでに発行している銘柄を上場させるのではなく、標準物と呼ばれる仮想的な国債を作り、一定の計算ルールで、現物の国債との図1 国債先物を用いた国債のマーケット・メイクのイメージ:入札時のケース国債先物市場JGBトレーダー財務省100億円分の10年国債を購入100億円の10年国債に相当する国債先物(約100枚)を売り建てる注:ここでは簡単化のため先物1枚が10年国債1億円と同等のリスク量を有していると想定しています。国債先物のリスク量についてはBOX 4を参照ください。 ファイナンス 2020 Jan.62シリーズ 日本経済を考える 96連載日本経済を 考える

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