ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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予約する場合、今予約をして、期日が来たら、予約時の価格を支払い、書籍を受け取ります。日本国債先物の場合も同じです。現時点で予約をして、将来支払いを済ませ、日本国債を受け取ります。まず、このイメージを持つことが大切です。先物は金融派生商品(デリバティブ)の一つとされますが、それは元となる資産(原資産)から派生した商品であるからです。日本国債先物の場合、原資産は日本国債ですが、その予約取引は国債の取引から派生して生まれたと解釈できます。先物市場は国債だけでなく、株式や為替、コモディティなど多岐にわたり、世界各国で活発に売買されています。デリバティブには先物以外にも、先渡(フォワード)取引、スワップ、オプションなどがあります。現在の日本国債先物市場において取引されている国債先物(以下、特別記載しない限り長期国債先物を前提に記載します)は事実上、残存7年の国債と連動する構造になっています。日本国債先物を考える場合、先物を買う(売る)ことで、将来、残存7年の国債を受け取る(受け渡す)ことができることをひとまず頭に入れておくことが大切です(実務家は国債先物と残存7年の国債が連動していることを前提とすることがほとんどです)。国債先物契約において残存7年の国債が受け渡されるため、国債先物と残存7年の国債の価格は非常に高い連動性を有しています*6。*5) メラメド(1997)を参照してください。*6) 日次データを用いて残存7年の国債の価格と先物価格の相関を計算すると1に近い値が得られます。宮野谷等(1999)のように、現物国債が先物に対して若干遅行していることを指摘する研究もあります。先物主導で相場が動くこともあります。*7) プライマリー・ディーラーは入札に向けて投資家からの注文を募るため、実際にはすべて在庫で抱えるわけではありません。2.2 先物の役割:リスク管理の提供日本国債先物の制度的な説明をする前に、実際に先物がどのように使われるかについて説明しましょう。日本国債先物は、典型的には金融機関のリスク管理のために用いられます。例えば、日本国債の発行に際して、財務省は入札を実施していますが、証券会社(投資銀行)などにより構成されるプライマリー・ディーラーが入札に参加しています。しかし、財政赤字を背景に日本国債の発行額が巨額になることから、日本国債の発行規模が1回の入札で1~2兆円に及び、その結果、一社あたりが数千億規模で国債を落札する可能性があります*7。もちろん、これに伴い金融機関がリスクを抱えますから、安定した国債消化のためにはリスク管理をするためのツールが必須となります。ビジネスを行う上で商品の在庫を有すること自体は、コンビニや服屋など他の業種も同じです。しかし、国債の場合、その規模が大きいことに加え、国債の時価が刻々と変化することから、価格変動に伴うリスクが大きい在庫といえます。例えば、入札の直後に日本国債の価格が大きく低下した場合、国債の入札に参加している金融機関は、大きな損を被る可能性があります。そこで、もし仮に保有する国債の価格と逆の動きをするポジションを作ることができれば、価格変動に伴うリスクをヘッジすることができます。国債価格が低下した際(すなわち金利が上昇した場BOX 1 先物と経済学先物は経済学とも密接な関係を持っています。シカゴ・マーカンタイル取引所(Chicago Mercantile Exchange, CME)の名誉会長であるレオ・メラメド氏は杉原千畝氏の「命のビザ」で救われたユダヤ人の一人です。彼は日本に一時滞在した後、米国へ亡命し、シカゴで金融先物市場を作ります。メラメド氏の書籍を読むと現在の金融先物市場のルーツをたどれますが、その設計において経済学者と活発な議論をしていることが理解できます。特に、メラメド氏は通貨先物市場を創設するにあたり、ノーベル賞を受賞し、シカゴ大学の教授であったミルトン・フリードマン教授に通貨先物をサポートする論文(“The Need for Futures Markets in Currencies”)を依頼したというエピソードもあります*5。61 ファイナンス 2020 Jan.連載日本経済を 考える

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