ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html日本国債先物入門:基礎編財務総合政策研究所 研究員服部 孝洋*1シリーズ日本経済を考える961.はじめに先物(futures)は日本が生み出した最も革新的な技術の一つといっても過言ではありません*2。先物市場は江戸時代の堂島米会所で始まったとされますが、今では金融市場において欠かせない役割を果たしています*3。事実、海外におけるファイナンスの講義やテキストにおいても、先物は日本で発明されたものとして解説されます*4。金融を専門とする筆者にとって、多くの日本人に知ってもらいたいものの一つです。先物市場は一日で数兆円の売買がなされる活発な市場であり、株式、債券など様々な先物が各国で取引されています。本稿ではその中でも特に日本国債先物に焦点を当てて先物の仕組みを解説します。実は日本国債市場を理解するうえでも、先物の理解は欠かせません。日本国債先物は日本の債券市場で最も活発に売買されており、その流動性が高いことから、国債先物の価格には多くの投資家の意見が反映されていると解釈できます。後述しますが、日本国債先物は残存7年の日本国債と強い関係を有しており、先物の情報は残存7年の国債との関係を通じて現物国債市場全体へ影響を与えます。財務省が発行する「債務管理リポート」で国債先物を紹介していることからも、日本国債先物が国債市場と密接な関係にあることがうかがわれます。*1) 本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する文献の正確性について何ら保証するものではありません。本稿につき、財務省、日本取引所グループの関係者等、コメントを下さった多くの方々に感謝申し上げます。*2) ペンシルベニア大学ウォートン校のフランクリン・アレン教授およびミルケン研究所グレン・ヤーゴ教授は「日本は何世紀にもわたり、多くの分野で世界的にみて、最もイノベーティブ(革新的)な国の一つである。(中略)金融イノベーションの分野においても、日本は歴史的にみて重要な貢献をしている。たとえば世界初の先物市場は1650年ごろの大阪の淀屋米市である」(アレン・ヤーゴ, 2014, p.iii-iv)と言及しています。*3) 学術研究についてはSchaede(1989)やWakita(2001)などを参照してください。*4) 例えば、佐藤(2016)はハーバード大学のデヴィッド・モス教授の講義におけるケーススタディとして、世界最初の先物市場として堂島米会所が取り上げられることを紹介しています。残念なことは、先物の仕組みは金融のテキストにおいてわかりにくいものの一つであることです。このことは、筆者を含め、金融市場にかかわった経験がある者が誰しも一度は経験したことではないでしょうか。そこで本稿では出来る限りかみ砕いて日本国債先物の解説を行うことで、先物の基本的な仕組みを理解することを目的としています。本稿ではどのような形で先物が用いられているかについてイメージがわくような例を取り上げます。また、実務家の間では広く知られていても、必ずしもテキストに記載されていない商慣行などについても可能な限り丁寧に説明します。数式を用いた理解を望む読者に向けて、BOXや補論で数式を展開した説明を行っています。本稿の構成は下記の通りです。2節では先物の基本的な仕組みについて説明し、3節では日本国債先物の商品性について、4節では決済の方法について説明します。5節が結語です。2.先物とは何か2.1 先物は予約取引先物に対してまず持つべきイメージは予約取引であるということです。日本国債先物を購入することとは、日本国債を予約して購入するということです。書籍を ファイナンス 2020 Jan.60連載日本経済を 考える

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