ファイナンス 2020年1月号 Vol.55 No.10
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このように、(1)と(2)については、新たに制度が設けられ、機能を開始している。(3)の欧州預金保険制度については、先述のように単一ルールブックにより現在100,000ユーロまではユーロ加盟国で一律に預金が保護される制度となっているが、この保護は、各国の預金保険制度により保護される制度となっている。これに対し、(3)は、ユーロ圏共通の預金保険制度を設けようという提案である。ユーロ圏レベルで預金の保証がなされれば、「銀行同盟」において全ての預金が同様に保護されることとなり、これにより預金者の預金に対する信頼が強化され、銀行の取り付け騒ぎが起こるリスクが軽減されることになる。他方、共通預金保険制度は、ユーロ加盟国間でリスクを共有するという意味を有するものであることから、加盟国間における意見の相違もあり、現在も議論が続けられている。以上のように、欧州経済通貨同盟の強化のための様々な取り組みの中でも、銀行監督強化のための「銀行同盟」の取り組みは最も進んでいる取り組みの一つである。▲ 資本市場同盟銀行同盟を補完するものとして、「資本市場同盟」という取り組みも進められている。これは、EU28カ国の資本市場をより深度のあるものとし、より統合を進めることで、(1)中小企業等に新たな資金調達手段を提供し、(2)資金調達コストを引き下げ、(3)EU域内の貯蓄に新たな投資の選択肢を提供し、(4)国境を越えた投資及びEU域外からの投資を促進し、(5)EUの金融システムの安定性と競争力を高めることを目的としている。資本市場同盟に関しては、英国がEUを離脱した場合、EUの中で最も発達した金融市場を有する国がEUから外れることになり、英国の去った後のEUの資本市場をどうするのかという難しい問題を抱えている。(ユーロ圏における財政政策と金融政策の関係)このように、世界金融危機以降、ユーロという制度を維持・強化するために様々な取り組みが進められ、ユーロ経済は、2013年以降回復を続けてきており、また危機以降の各国間の格差拡大の動きにも減速の兆しが見えてきている(図表2参照)。他方、こうして強化されてきた枠組みにも、依然制度としての不均衡が存在する、と欧州委員会は指摘している。つまり、金融政策は、一元化されている一方、財政政策は、制裁を有する強い財政ルールの枠組みのもとで各国に委ねられており、経済政策一般については、「欧州セメスター」の協力枠組みを通じたソフトなガイダンスによるものだけとなっており、このような枠組みは、必要な構造改革や投資といった分野における進展の欠如につながってきたという指摘である。この結果、欧州中央銀行の金融政策に過度の責任を負わすことになってきたというのである。確かに、危機以降の欧州の経済回復に欧州中央銀行の金融政策が大きく貢献してきたことは言うまでもない。先に見てきたように、欧州経済は、2013年から回復を続けてきたが、今後は、少なくとも近い将来は強い回復が期待できない状況となってきており、また先のファンチャートが示すように、下振れのリスクも多く存在するという状況になってきている。こうした中、欧州中央銀行は、2019年9月に再び緩和的方向に金融政策の舵を切っている。しかし今後下振れリスクが顕在化した場合には、更なる経済安定化のための政策が必要となる可能性がある。こうした中、財政政策に対する関心が強まっている。しかし現在のEUには、EU全体または一加盟国に対する経済的ショックに対処するための、経済安定化のためのEUとしての財政的な手段が存在しない。この点に関し、EUでは、2019年に「収斂と競争力強化のための財政的ツール(Budgetary Instrument for Convergence and Competitiveness)」図表2 一人当たり実質GDPの推移1715131109070503011999(1999年=100)経済危機90140130120110100(年)ドイツEUフランスギリシャイタリアスペイン出典:欧州委員会57 ファイナンス 2020 Jan.連載海外 ウォッチャー

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